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「柚希くん!」 解散宣言後、突然後ろからハスキーな声で名前を呼ばれた。 この人は確か、陽人の親衛隊隊長の彩ちゃんだ。姉御肌でキリッとしていて、身長も高くてスレンダーな美人だ。男の俺から見ても凛々しくてカッコいいと思う。 「これなんだけど……何かあった時の為にGPS発信器が中に入ってるの。陽人くんに頼まれて作ったのよ。ストラップになってるから、キーホルダーで使えるようになってるわ。肌見放さず持っててね」 「…………あ……ありがと…う……」 陽人達に言われてスマホにGPS追跡アプリを入れたけど、電源を切られたらおしまいだ。他にGPSの発信器を持っていれば、より安全だろう。 それよりも…… 俺はこれを見た事がある。 陽人がファンから新作が出る度に渡されてる、『陽人くん人形』だ。陽人が貰う度に嬉しそうに見せてくれて、その都度俺が『ダセェ……』とバカにしてきた人形だ。まさか、クールな感じの彩ちゃんが作っていたものだったなんて、正直驚いた。 今までダサいって言ってごめんって、心の中で謝った。 「それ、新作なの。陽人くんと莉奈っちの分もあるのよ」 彩ちゃんが、陽人と莉奈ちゃんへ陽人くん人形を渡した。莉奈ちゃんは嬉しそうに、目を輝かせていた。 「今回も力作で素晴らしいです!はる先輩の三角巾姿がとてもよく再現されていて、骨折バージョンも素敵です。彩さん、ありがとうございます」 「彩ちゃん、頼んでいた物作ってくれてありがとう。それといつも、可愛い人形すごく嬉しいよ。大切にするね」 「陽人くんの引退試合の時は、試合の度にユニホーム姿の陽人くん人形を作るわね。それに今、応援用のバンダナも作ってるの。陽人くん人形の画像を、親衛隊カラーの赤い生地に特注でプリントしてもらったのよ。試合前に、親衛隊の子に配らなきゃ。観客席を陽人カラー一色にするわ」 「彩さん、バンダナ作り、私も手伝います!」 「莉奈っち、頼んだわよ」 「本当にありがとう。二人とも無理しないでね」 「陽人くんの最後の公式戦だもの……私達も命懸けで頑張るわ!」 そうだーーー もうすぐ、陽人の引退試合が始まる。 子供の頃から、ずっと続けてきた大好きなサッカー。 そのサッカーを部活でするのは、中学で最後になる。 不動のエースなのに、陽人は試合に出る事が出来ない。 陽人を慕い、応援してきた人達も、陽人の最後の勇姿を見る事が出来ない。 そして、俺もボールを追いかけ試合を制してきた陽人が、グラウンドに立っている姿を見る事が出来ないんだ…… そんな忙しい最中だというのに、親衛隊の子達は俺なんかに協力してくれている。 さらに、今月末に生徒会総会だってあって、決算報告もあるから生徒会のみんなだって本当はかなり忙しい。 陽人なんかサッカーと生徒会、骨折の通院だってしなきゃならない。だから、相当忙しくて本当は余裕なんてない筈なのに…… 目の前にいる陽人はいつもと変わらず涼しげに微笑んでいて、穏やかで余裕すら感じた。 「柚希、どうしたの?今日も一緒に帰ろう」 「あっ、あぁ……」 陽人の隣へ駆け寄り、並んで歩いた。 サッカーの試合が始まる頃には、天気予報で梅雨入りするかもって言っていた。 親衛隊の子達はきっと、試合の前日にてるてる坊主を作って、晴れる事を祈るんだろう。 ーー俺も、試合前はてるてる坊主作ろうかな…… 陽人に見つかると恥ずかしいから、作ったらこっそりと見えない場所へ飾ろう。

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