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上から心配そうな表情をして、綺麗な顔で覗き込んでくる。
もう授業なんてとっくに終わって、下校が始まっていた。
「柚希……ごめん……」
「しょうがねぇよ……俺だって……シたかったし……」
「本当?」
陽人がキスしようと、顔を近づける。
手の平を前に向け、口元を覆って隠した。
昨日は出来なかった拒否を、今はしている。
そうしないと、腰の抜けた俺の身体がぶっ壊れる事になるから。
「ダメ……陽人は、性欲止められなくなっちゃうだろ?」
「……そうだけど……だって柚希がエッチだから……ねぇ、キス…したい」
「エロくて悪かったなぁ……おでこなら、いいよ。おでこなら、陽人も暴走しないだろ?」
うん、と頷いた陽人が、テーブルに横たわる俺のおでこにキスをした。
「部活の方は、明日から顔出すって連絡したから大丈夫だよ。歩く時、抱きつくみたいにして俺にもたれ掛かって。遠慮しないで、体重全部任せていいから。ゆっくり休みながら帰ろう」
「そんなの、恥ずかしいって……」
「じゃあ、俺が片手でお姫様抱っこする?」
「もっと嫌に決まってんだろっ!」
「ふふっ。すごい、顔赤いよ」
熱く火照った頬を、スリッと撫でられる。
陽人の目はまだまだ欲を孕んでいて、ちょっとしたきっかけで強引に押され、また始まり出しそうで危うい。
「イチャイチャしてる所、失礼します。ハル先輩に頼まれていた、変装用の制服持って来ました」
ドアを開けて、紙袋と俺のスクールバッグを持った稀瑠空が入ってきた。
「イチャイチャなんか、してねぇしっ」
「稀瑠空、迷惑かけてごめんね……」
「いいえ。まぁ……消去法でいけば、俺しかいないでしょ。ナツ先輩はセージ先輩に喋っちゃうだろうし、それを聞いたセージ先輩は授業サボッた事詰めるだろうし。ヒロ先輩には無理させられないし、絢斗はあんな感じだから信用できないし……」
「まあ……そんな感じ」
「俺、喋るつもりないから安心して。なんかあった時は、また呼んで下さい。それと俺、ハル先輩に謝らなきゃ……ハル先輩のスクールバッグ、忘れてきちゃいました……すみません」
「別にいいよ。稀瑠空は悪くないって。無理言って急に頼んでごめんね。教室に取りに戻るから、柚希の着替え手伝ってあげて。ちょっと……柚希動けなくてさ」
「わかりました……理由は聞きません。ゆっくり行ってきて下さい」
ごめんって謝りながら、陽人は慌てて荷物を取りに戻った。
稀瑠空の顔を見ると、楽しそうにニコニコ笑っていた。
「面倒な事頼んじまって、ごめんな……」
「いえ、取り敢えずネクタイ解けました。体起こしますね。サクサクと着替えちゃいましょう」
稀瑠空は無駄のない動きでテキパキと女子の制服に着替えさせてくれて、ウィッグも被せてくれた。
「カラコンは入れられる?無理なら今日は止めといても、大丈夫だと思いますよ」
「ちょっと……力入らねぇから……無理かも」
「学校で授業サボッて腰抜かす程シちゃうなんて……激しすぎ。ハル先輩、ユズ先輩といると、色々と違う面が出てきて……あの聖人君子のようなハル先輩のクズい部分……見ててめっちゃ、楽しい。ふふふ」
「……稀瑠空って……案外、腹黒い?」
「俺、すげー腹黒いですよ。人の修羅場とか見ちゃったら、楽しくってほくそ笑んじゃうタイプだし」
「うわ……こわっ……」
「ハル先輩とは、いつから付き合ってるの?」
「……付き合っては……ない」
「えっ……?……体だけ?」
「そう……」
「告らないの?」
「……親友…だし……」
「……そう、なんだ。上手くいくと思うけど」
「無理だよ……俺なんか……」
稀瑠空はフゥーとため息を吐くと、「ユズ先輩がそう思うなら、仕方ないよね」と脱いだ制服を丁寧に畳んで、紙袋に入れてくれた。
「こっちの制服は、クリーニングした方がいいですよ。色々と汚れちゃってるし……ふふ」
「稀瑠空……楽しそうだな……」
「これからも二人の事、観察させて下さい。俺の楽しみが一つ増えて……すげー、嬉しい」
「やっぱ、怖ぇーな……まあ、また迷惑かける時は……よろしく、な」
「ふふふ、任せてください」
楽しそうに無邪気に笑う姿は、すごく綺麗で無垢な天使なのに……
中身は悪魔みたいな所があって、稀瑠空って掴み所がなくて……
見た目の美しさと相まって、この世のものとは思えなくて、ミステリアスで目が離せない。
稀瑠空って人を惹き付ける魅力に溢れてる。
綺麗だから、スタイルがいいからだけでなく、選ばれた人間にしか与えられない天性の輝きがあるから、みんなを惹き付ける。芸能人として成功してるのは、そういう事なんだろうなって思った。
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