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「たまたま倒せたからって、調子に乗るなよ。女の前で無様な姿、晒してやるよ」
「別に構わねーよォ。無様だろうが、何だろうが、テメェみたいな糞野郎、ぶっ倒せるなら気にならねぇしィ」
「言ってろ、くそ!」
先制の一発を腹に食らってしまう。ヘビーなパンチは体力を消耗し、体の動きを鈍くする。その後も、顔と脇腹を連続で殴られた。口の端が切れ、血が滲む。痛みと衝撃で、体が少しフラついた。
「ははっ!格好つけてたのに情けねぇなぁ。俺の事、ぶっ倒すんじゃねぇの?テメェのが、先に倒れそうだなっ!」
「うるせぇ、糞ヤンキー!まだまだ、余裕だわァ!」
「あぁ、そーかよ。じゃあ、これでも食らってろ!」
その言葉と同時に突き上げるような拳が、鳩尾にクリーンヒットした。息が出来なくなり、口をはくはくさせてる間に、顔面を何度も殴られ頭が揺さぶられる。チカチカと星が見えて、足が縺れ思うように動けない。そのまま、木村にいいようにサンドバッグにされる。
時間だけが刻々と過ぎていく。
仔猫達が涙声で、何か喚いてる。
段々とまわりの音が聞こえなくなり、視界が狭くなっていく。
遠退く意識の中、学校で俺を送り出した、愛しい恋人の泣きそうな顔を思い出すーーー
ーー……ここで、終わりじゃねぇだろ…… 集中しろよ……こんなんじゃ大切なもの、守る事なんて出来ねぇだろうがっ!
目を見開き、心を無にして、冷静に相手の動きを食い入るように見つめた。
怒りに任せて襲いかかるだけの木村の動きは、勢いはいいけど荒くて単調だった。
動きを見切ると、木村を避けながら腹を膝蹴りした。追い討ちをかけるように、くの字に曲がった木村の背中に肘打ちをすると、仰け反って崩れ落ちた。
伏せながらも、しぶとくグダグダ悪態を吐く木村に、「時間ねぇからァ」と項を手刀で叩き気絶させた。
《無事、終了。友さんは俺の知人が、病院へ連れて行きます。安心して下さい。今から、スタジアムへ向かいます》
メッセージを送り、グッタリとする友さんへ近付く。献身的に愛華が、ハンカチで血を丁寧に拭っていた。
「友さん……柚希ちゃんの事、必ず守ります……だから、安心して病院に行って、治療して下さい」
俺の言葉に反応し、安心したように口の端が微かに上がった。
病院は愛華が太客の病院の院長に頼んだみたいで、民間の救急車まで手配してくれた。そのまま、緊急手術と入院になるだろうから、落ち着くまで友さんに付き添うって言ってる。
「ケンティだって、怪我してんだからぁ……少し休んでから行こぉ……」
「悪ィ……友さんとの約束あるし……それに…………稀瑠空が待ってるからァ……」
目の前にはスタジアムが見える。
時計を見ると、すでに試合終了時間をとっくに過ぎていた。
休んでる暇なんてない。
奴等は閉場するまでには、きっとけりをつけるつもりだ。
痛む体なんか構わずに、手が届きそうなスタジアムまで必死に走った。
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