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81 ~陽人 side~
試合終了間際、最後の最後にダメ押しのシュートを蹴り上げる。
ボールは弧を描き、ゴールへと吸い込まれるように落ちて、守護神に捉えられる事なくネットを揺らした。
『ゴーーーール』
圧勝ーーー
青葉東中が見事に優勝し、有終の美を飾る事ができた。
後半戦中盤、監督に呼び出され、アップを始めた。「悔いのないようにな!」と監督に背中を押され、いよいよ念願の試合出場。
今までの悔しさを取り戻すように、3得点を決め、最後の最後に1点を追加した。
ーー……約束通り、優勝したよ……早く、柚希に逢いたい。柚希、どんな顔して見てたかな……?逢って、強く抱きしめたい。
柚希がいる辺りの観客席を見つめ、見える筈のないグラウンドから、胸を高鳴らせ愛しい人を探した。
※ ※ ※ ※
「すまない、陽人。……柚希が………柊に…拐われた……」
「えっ…………?」
予想だにしなかった征爾の言葉に、頭がついていけない。
鼓膜に言葉は入り、脳へ伝わってるけど……
理解が出来ない……
……いや、したくなかった。
現実を受け入れられないまま
ただ、日にちだけが虚しく過ぎていく。
優勝の打ち上げ、
サッカー部の引退式、
生徒会総会……
目まぐるしいくらい、忙しかった。
でも忙しいおかげで、何も考えないでいられた。
きっと、暇だったら、ネガティブな思考になっていたかもしれない。
ふとした瞬間、気付けば柚希の事ばかりで、頭がいっぱいになる。
柚希が戻ってきたら、守ってあげられなかった事、何度でも謝ろう。
許してもらおうだなんて、思ってない。
何でもわがまま聞いてあげて、
いっぱい甘やかして、
すべての時間を、柚希の為に使って……
深く傷ついた身体を、心を
少しでも癒して、和らげて……
何も出来なかった事を、只々償いたかった。
◇
そうしてる内に、週の後半になっていた。
柚希は一向に、帰って来ない。
ーー美空ちゃんに聞いたら、まずいかな……
柚希がいないのに、美空ちゃんは騒いでる様子はなく、いつも通りに過ごしていた。
柚希の事を愛していて、宝物のように思っている美空ちゃんが、行方不明になって騒がないなんてあり得ない。
多分、柊が上手く誤魔化しているんだろう。
ーー先に先生に聞いた方が、良いな……
「先生、内海が何日も休んでいるんですけど、何か知りませんか?」
「あぁ、内海なら転校したよ」
転…校……?
「どこの学校ですか?いつから?教えて下さい!」
「有働、悪いな。個人情報で教える事は出来ないんだ」
そう言うと、先生は苦笑いをして逃げるように去っていった。
学校ではこれ以上、何も教えてくれないだろう……
美空ちゃんに……話を聞こう。
柚希が拐われただなんて、きっと知らない。
余計な事を言って、美空ちゃんを不安にさせないように、気を付けながら話した。
「美空ちゃん……少し話がしたいんどけど、大丈夫?」
「陽人くん、どうしたの?」
「……柚希って、転校したの?」
「うん」
「どこに?」
「……陽人くん、ごめん。柚希が陽人くんには、何も言わないでって。大切な親友だから、自分で言いたいみたい。柚希から連絡いくと思うから、待っててくれるかな?」
「……そっか…わかった。……柚希は…元気でやってるの?」
「うん。幸せそうにしてるわ」
幸せそう……
“元気そう”ではなく、“幸せそう”……
多分、一人じゃない。
その傍らには、間違いなく柊がいる。
手元に柚希を置く事を許してもらえるくらい、美空ちゃんに信頼されていて。
幸せそうに柚希を振る舞わせるくらい、柚希に圧をかけ従わせている。
ーー早く……柚希を見つけないと……
部屋の中でベッドに腰を掛け、ぼんやりと窓を眺めた。いつも柚希の部屋の明かりが見えたのに、今は真っ暗で何も見えない。
その暗闇を見てると、柚希はいなくなったんだって改めて実感させられる。
ーー柚希をどうやって探すか……
思考を巡らせ模索してると、机の上でスマホが鳴った。
ベッドから立ち上がり、スマホを手に取って、急いでタップした。
ーー柚希からだ……!
ずっと音信不通だった柚希から、メッセージが届いた。
やっと連絡が来た事に、ホッとする。
メッセージを開き、内容を確認する。
「……ゆず…き…………」
震える手のひらから、スマホが滑り落ちる。
音を立てて床に落ち、
スマホの画面にヒビが入った。
ヒビ割れたスマホには……
俺の名前を叫び、
助けを求め……
柊に二度目のレイプをされている
柚希の動画が流れていた。
【第一章 完】
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