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ーーあれ……何だろう…… 映像を見ていて、何か違和感を感じる。 感じるけど、それが何なのか見つける事が出来ない。 そんな風に疑問に思ってると、誰もいない筈の多目的トイレのドアが再び開いた。 ーー何で……?お婆ちゃんと青年が出てきたトイレから……斉木が出てきたんだろう……? 斉木はクラスメートで、不良グループの次期リーダー候補だ。視線だけで人を殺せそうなくらい、ものすごく迫力がある。 俺は怖くて、話し掛ける事なんて疎か、一度も顔すらまともに見た事なんてない。 何で?どうして……??? 鈍感な頭で、必死に思考を巡らせた。 クエスチョンマークでいっぱいの頭には、いつになっても答えが出てこない。 「ヒロ先輩、もうすぐ着くよ。リュックにパソコン仕舞って。俺が、リュック持つから」 年下なのに気が利く稀瑠空は、体力のない俺の事を、いつも気遣ってくれる。 その優しさに、ついつい甘えてしまう自分が情けない。 稀瑠空は顔だけじゃなくて、心も美しくて本当に天使みたいだ。 タクシーはスタジアムの駐車場に到着すると、入場ゲート近くの歩道に幅寄せし、先に停まっていた黒いワンボックスカーの後ろへ止まると、ハザードを焚いて停車した。 一刻を争う状況なのに…… ノロマな俺は、動きがすごく遅くて……モタモタしてしまい、二人を足止めしてしまう。 迷惑をかけたくなくて、稀瑠空の肩を叩いて、先に行くように促す。 「わかった。ヒロ先輩、先に行ってるね」 リュックを背負って、稀瑠空と近衛先輩は走り出した。 傍から見たらノロノロと見える動きで、俺なりに急いでタクシーを降り、ゲートへと向けて急いで走り出した。 ーーあれ……? ゲートまでの道の半分の所で、監視カメラで見たお婆ちゃんと青年の二人とすれ違う。 急いで行かなくてはならないのに、後ろ髪を引かれたみたいに、その二人がどうしても気になって立ち止まる。 お婆ちゃん達が停車していたワンボックスカーに近付くと、後部座席のドアがスライドして開き、中からタトゥーだらけの髪を染めたガラの悪い男達が一斉に降りて来た。 あっという間に車椅子ごとお婆ちゃんを乗せ、すぐさまドアが閉まった。 付き添っていた青年は素早く助手席に乗ると、キャップと眼鏡を取り、ウィンドウガラス越しに俺を見てニヤリと笑った。 ーー樋浦柊! 着物と眼鏡と白髪のウィッグでわからなかったけど…… 拉致されたお婆ちゃんは、柚希先輩で間違いない。 俺達が柚希先輩を変装させて守ったように、同じやり方で柚希先輩を拐おうとしている。 ーー本当に、卑怯だ!こんな悪い奴等に、柚希先輩を絶対に奪わせない! 俺が呼べば、稀瑠空も近衛先輩も気付く距離にいる。 稀瑠空に、 近衛先輩に、 知らせなきゃ! 「ーーーー!!!」 失った俺の声は、緊張で喉が締め付けられ、微かな音ですら発さなかった。 ーー神様、お願い……!一生喋れなくなってもいいから……!今だけ、“声”をください! 何度も口を開け、力の限り叫んだ。 でも、その声は心の中でしか響いてなくて…… ただ意味もなく、口をパクパクさせているだけだった。 神様への懸命な願いは、届く事がなく…… ワンボックスカーはタイヤを鳴らしながら急発進し、どこかへと行ってしまった。

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