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79 ~大夢 side~
タクシーの後部座席に座り、稀瑠空の隣で自分のノートパソコンを広げていた。助手席には近衛先輩が座っている。
予め俺を捜索する前に、タクシーを配車していたみたいだ。タクシー会社は佐倉家が贔屓にしている所で、料金は征爾先輩が払ってくれる。
生徒会で美味しいお茶を飲む為に、コーヒーやお茶、道具や備品、携帯出来るように一人一人の専用マグボトルを購入したのも征爾先輩だ。
お金持ちってやっぱりすごい。
ーー俺が捕まったせいで、みんなの足を引っ張って……柚希先輩が、大変な時だっていうのに……
俺を救ってくれた柚希先輩を、ストーカーから守りたかった。
そして、いじめられている俺を見つけ、助けてくれただけじゃなくて、生徒会の書記へスカウトしてくれた陽人先輩の力にもなりたかった。
二人は俺にとってすごく大切な人で、地獄のような日々から救ってくれた恩人だ。
ーーだから……本当はこんな事しちゃ、ダメだってわかってるけど……今は仕方ないんだ……迷惑かけた分、みんなの力になりたい……!
自分を説得して、震える指先をカタカタと動かす。以前、興味本意で試したら出来てしまった。でも、それ以来怖くて一度もした事はなかった。
ーーよし、繋がった……
時間が、かかってしまったけど……
あおばスタジアムの監視カメラのシステムにハッキング出来た。パソコンのディスプレイには、監視カメラの映像が映し出されている。
設置されてるカメラの場所を切り替えながら、映像を確認する。
観客席は人でいっぱいで、この中から柚希先輩を探し出すのは、すごく大変そうだと思った。
それに、話には聞いていたけど……
怖そうな不良達があちらこちらに満遍なくいて、結構な人数が彷徨いていた。
「ヒロ先輩、何か調べてるの?」
横から稀瑠空が、じっと見ながら尋ねてきた。本当に整った顔立ちで、何回見ても飽きる事はなく、綺麗で思わず見とれてしまう。
ハッキングは犯罪行為だ。そんな事をしてるなんて知られ、もしみんなを巻き込んでしまう事態になったら大変だ。
目を逸らしテンパりながら、慌てて何度も頷いた。
勘の良い稀瑠空は挙動不審な俺を見て、それ以上は聞いてこなかった。
再び、カメラを切り替えながら、会場を見回った。
コンコース側のカメラに切り替えると、征爾先輩と成都先輩が、沢山の不良達と向かい合ってる。
ーーこんなに沢山の不良に、たった二人だけなんて……二人が危ない……!
一触即発の状況に、オロオロしながら見守る事しか出来ない。
稀瑠空や近衛先輩が近くにいるのに、強張ってしまい何も出来ないでいた。
相変わらずチキンな自分に、嫌気がさしてしまう。
暫く不良達と言い合いをしていたみたいだけど、喧嘩にはならずに、征爾先輩と成都先輩は固く手を繋いで、不良達がいる隙間を潜り抜けるように歩きだした。
緊迫が解けて、ホッとする。
観客席だけではなく、コンコースにも人は沢山いた。
不良達の後ろ側の少し離れた所には、陽人先輩の親衛隊隊長の彩先輩と莉奈ちゃんが立っていた。
それ以外にもーーー
何人も子供を連れたお母さんは、小さい子を抱っこやおんぶして、大きい子達と楽しそうに会話をしながら歩いていた。
着物姿のお婆ちゃんが、具合が悪そうに眠りながら乗る車椅子を、キャップを被った眼鏡の青年が静かに押して多目的トイレから出て来た。
孫の試合を観に来た感じの老夫婦は、杖をついてるお婆ちゃんの曲がった背中へ、愛しそうにお爺ちゃんが手を添えてサポートしていた。
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