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ちょうど暁先生の授業がある日。
柊は用事が出来て、昼休みに来られなくなった。
ちょっとだけ……と、暁先生が授業をする多目的ルームへ向かう。
その見た目と人柄で、人気があるんだろう。
結構な数の生徒が、授業に参加していた。
暁先生の授業はとてもわかりやすく、間に挟む話も面白くて、何時間でも授業を受けたくなるくらい飽きなかった。
楽しかった時間は、あっという間に過ぎてしまう。
授業が終わると前みたいに、暁先生は生徒達に囲まれていた。
暁先生と話すのは楽しいから、囲みたくなるのもわかる気がした。
モテモテの暁先生をよそに、一人でいつものベンチへ向かって歩いた。
柊がいないくて寂しい昼休みかと思ったけど、今日は暁先生のお陰で心が満たされていた。
「はい。頭使ったから、糖分どうぞ」
ベンチに座る俺に、暁先生がペットボトルのイチゴミルクのジュースを、キャップを外して渡してきた。
「ありがとうございます」
人から受ける優しさを、ありがたく受け取る。
自分ではあまり選ばないジュースだけど、甘くて優しい味に、ゴクゴクと飲み込んだ。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね。君の名前、教えてほしいな」
「うつ……樋浦です」
「引っ越してきたって言ってたね。前は何処に住んでいたのかな?」
「青葉市です。県北の」
「遠い所から越してきたんだね。こっちには、親戚や知り合いはいるの?」
「いえ……いないです」
「そっか。それじゃ、不安だよね。友達は出来た?」
「まだ、いません……それに……友達はいりません……」
「どうして?寂しくないの?」
「家族がいるから……平気です」
「じゃあ、先生と友達になろうか?」
「えっ……あの……」
「いろいろ、事情があるのかな?無理しなくていいよ。もし、樋浦くんの気持ちが変わったら、先生と友達になろう」
「……はい…………あの……暁先生は、いくつなんですか?」
「僕は21だよ。樋浦くんからみたら、おじさんだね」
「いえ……そんな事ないです。暁先生は若くてかっこいいと思います」
「ふふ……お世辞でも嬉しいよ。ありがとう。樋浦くんは可愛いね」
「そんなこと……」
暁先生は気さくで、気配りもあって聞き上手で、本当に話しやすかった。
口下手な俺でも次から次へと、気兼ねなく話し続ける事が出来た。
暫く話してると
なんだろう……
目が……回って……
すごく……眠い……
「なん…か……めまい……が……する…………」
そのうちに、強い睡魔に襲われ、目を開ける事すら出来なくなった。
暁先生の肩に寄りかかって、やっと座ってる状態になる。
「大丈夫?遠慮しないで、僕に寄りかかって」
「……すみ…ま……せん…………」
「このまま、寝ちゃっていいからね」
もたれ掛かり、うつらうつらし始めた俺を胸に抱え……
「人が封を切った飲み物は、飲んじゃダメだよ。柚希ちゃん……」
微笑みながら彼は、小さく呟いた。
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