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「柚希ちゃんの方から、僕に会いたいだなんて、何だか嬉しいな。久しぶりだね」 「久しぶり……」 「何か、話があって来たんじゃないの?顔にそう書いてある」 「……柊の事で…聞きたい事があって……」 「場所、変えようか?そこでランチでも食べながら、話そう」 大学構内のカフェへ移動した。 店内の奥の席に、暁と向かい合って座った。 テーブルにはカフェラテとエビとアボカドのサンドイッチのプレートが並んでる。プレートにはにんじんのポタージュとサラダとミックスベリーのヨーグルトがのっていた。暁の奢りだ。 「柊ちゃんが、よく二人きりで会う事、許してくれたね?」 「美玲の様子を暁に聞きたいって言ったら、昼休み中なら良いって。あっ……勿論、美玲の事は気になってるよ」 「ふふふ。美玲ならだいぶ落ち着いたよ。相変わらずトゲトゲしいけどね。少しは僕に、懐いてくれたかな。自傷行為もしなくなったし」 「良かった……」 「聞きたいことって何?」 少し考えてから、ポケットから母子手帳と写真を出して、暁に見せた。 「あぁ……そういう事か……」 「この人……柊のお母さんなの?」 「そう」 「その……亡くなったの?」 「うん。柊ちゃんを生んですぐに。柊ちゃんに、一度も触れる事がないまま、亡くなったって……」 「……夜中に、柊が子供みたいに泣いてて……俺の事見て『母さん』て言ってたから……柊がいない時に、部屋でこれを見つけて。……俺が柊の母親に似てるから、好きになったのかなって……」 「柊ちゃんが柚希ちゃんをどうして好きなのかは、柊ちゃんじゃないとわからないから……でも、柚希ちゃんは、柊ちゃんが初めて好きになった人だよ」 「えっ……そうなの?」 「……正直、柊ちゃんは一生、誰の事も好きにならないと思ってた……」 「……好きにならないって……どうして?」 「柊ちゃんはね、“愛”を知らないんだ……」 暁は目を伏せて、悲しそうな顔になった

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