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121 ~柚希 side~
陽人がいる……
陽人と手を繋いでる……
夢じゃない……
本物の陽人だ……
こんな風に出来る日が来るなんて、もう二度とないと思っていた。
一生、柊という檻の中で生きていくんだろうなって……
そう、思っていた。
「陽人……」
今まで呼びたくても、呼べなかった名前を口にした。
「どうしたの?柚希」
聞きたかった陽人の声が、返ってくる。
たったそれだけなのに、再び涙が溢れてきた。
「今は走らなきゃ。後でいっぱい、泣いていいから。その間ずっと、抱きしめていてあげる」
胸が詰まって、頷く事しか出来ない。
走って、走って
自由に向かって
陽のあたる場所へーーー
とにかく、走り続けなきゃ……
キキッーーー!
激しいブレーキ音が、住宅街に木霊した。
荒々しいエンジン音とクラクションを鳴らし、車が近付いてくる。
「柊!」
「思ったより、早かったかな……かなり、車飛ばして来たね。スマホ以外で柚希にGPSの発信器付けてるのは、予測してたから……ここへ来るのは、想定済みだよ」
車窓に光が反射して顔は見えないけど、相当激怒してるのが荒い運転から伝わる。
走らなきゃいけないのに、恐怖で足に力が入らなくなる。
グイッと陽人が手を引くと、支えるみたいに肩を抱き寄せてきた。
「俺が柚希を、守るから。大丈夫だよ」
目を見つめ、自信たっぷりに微笑む陽人の顔を見てると、不思議と力が湧き上がってきた。
縺れる足を叱咤するように、太腿を叩き、力一杯地面を蹴った。
いくら俊足でも、流石に車のスピードには叶わない。
車は俺達を軽々と追い越し、狭い道を塞ぐようにして止まった。
車から、柊が鬼のような形相で降りてきた。
「陽人、テメェふざけんなよ!俺のモン、取るんじゃねぇよ!」
「柚希はあなたのモノじゃない。それに、柚希の気持ちは、あなたにはない。いい加減、諦めて下さい」
「うるせーよ!んな事、わかってる!俺はただ、柚希が側にいてくれるだけで、それだけで十分なんだよ!」
柊がポケットから、ナイフを取り出した。
鋭利な刃(やいば)は、太陽の光が反射してギラリと光ってる。
「……そんな事、やめて下さい」
「柚希を奪われるくらいなら…………何だってしてやるよ!」
柊がナイフを振り上げ、陽人に向かって走ってきた。
「柚希、ごめん!」
陽人は俺が巻き込まれないように、遠い場所めがけて思いっきり突き飛ばした。
「陽人ーーー!」
叫びながら勢いよく、転がるようにアスファルトへ倒れ込む。
凶器を持ち、殺意に満ちた目をした柊。
俺を庇うようにして構え、迎え撃つ陽人。
目の前で、信じられない
“惨劇”が
起きようとしているーーー
「やめてーーー!!!」
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