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エピローグ2

ーーちゃんと、罪、償わねぇとな…… 「810番。面会だ」 ーー弁護士か……? 刑務官の後についていき、案内された面会室へ入った。 「父…さん……」 「久しぶり……だな……」 「ご迷惑おかけして……申し訳ありませんでした」 「その事は…………いい」 責められると思ってたのに、何も文句を言わずにあっさりと答えられた。 きっと、跡継ぎとしての役割をこなせないどころか、多大な迷惑をかけた事に激怒しているんだ。 たった一人の家族だけど…… 親子の縁を切られる日が、 とうとう来たんだって…… 目を瞑り覚悟決めて、 父さんからの絶縁の言葉を、静かに待った。 「お前が養子縁組をしていた少年に……会ったよ。透子にそっくりで…………本当に、驚いた」 父の口から出たのは絶縁の言葉ではなく、柚希の話だった。 只でさえ、俺が逮捕されたせいで忙しいのに、養子縁組を解消する為に、父さんに手間を掛けさせた事が、本当に悪いと思った。 ーー父さんが驚くぐらいだから……やっぱり母さんに似てるんだ…… 「その少年に、ガツンと叱られたよ。『ちゃんと、柊と向き合ってくれ』って……。『たった一人の家族なんだから、愛してやって』って。…………まるで、天国から様子を見ていた透子が現れて、怒られているみたいだった……」 「父さん……」 「……わかってたんだよ……透子がどんな気持ちで、おまえを生んだのか……どんなにおまえを、愛してたのか…………それでも……私は、臆病者で……」 父さんは涙で声が詰まり、嗚咽を上げてる。 「透子の死を、受け入れる事が出来なかった……おまえを認めたら……透子が死んだ事になる……だから……おまえを受け入れる事が、どうしても出来なかった……。すまない……柊……本当に……すまない……」 「父さん……もう、謝らないで……」 「今からおまえの父親になるのを……許してくれないか……?」 「とう……さん……」 「この世で……たった一人の……私の息子になってほしい……」 「許すも何も……俺は父さんの息子で……父さんは俺の、たった一人の家族だから……」 「……ありがとう……ありがとう、柊…………」 「父さん……」 無機質なアクリル板越しに、手と手を重ねる。 父さんが俺に触れようとするのは、生まれて初めてだった。 掌に当たってるのは分厚いアクリル板なのに、何故だか父さんの手の温もりを感じて、心がじんわりとして感動で震えた。 「柊がここを出るのを、何年でも待ってる……いや、待たせてくれないか……」 「ありがとう……父さん……」 柚希と俺は、結ばれる事はなかった。 それでも、こんな俺を愛してくれた。 そして、俺の一番欲しかったーーー 家族の愛を、俺にくれた。 ーー柚希……ありがとう…… 小さな少年が、 大きな愛を 俺に運んできてくれた。

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