132 / 134

エピローグ3 ~柚希 side~

あれから、10年の月日が経った。 9月の中旬。 仲秋の爽やかな風とやわらかい日差しが、何処か遠くへと誘(いざな)うような…… そんな、穏やかな行楽日和だった。 卒業後、何度かみんなと集まったけど。 誰かしか都合が合わず、全員が集まる事は中々なかった。 誰一人欠ける事なく集まるのは、本当に久しぶりだ。 「懐かしいな……Cosy Room Cafe……」 「今は征爾と成都の二人が、店を引き継いでるみたいだよ。養子縁組も、もう済んでるって」 昔と変わらないアイアンの門を開け、中へ入る。 地元の超人気店を、繁忙期に丸一日貸し切りに出来るのも、親友の強みだ。 「はるはる!ゆずゆず!おめでとぉ!それと……ココア、初めましてぇ!めっちゃ、可愛いねっ」 俺と陽人が飼ってる、愛犬のトイプードルのココアに成都は目を輝かせる。 Cosy Room Cafeは、テラス席なら犬の同伴が可能だ。犬用のメニューもある。 暫く来ないうちに、庭の一部にドッグランまで出来ていた。俺と陽人が犬を飼ってるって聞いて、今日の為に作ってくれたみたいだ。 「なつママ……誰ぇ?」 成都の背後にひっついてる、成都そっくりの小さな女の子が、顔をひょっこり出して尋ねてきた。 「えっ!?成都の子供?」 驚愕し、声が裏返ってしまう。 「こら、琉瑠(るる)。お父さん達の所にいなさい」 「はーい、せいじぃパパ」 もっと小さい成都そっくりな赤ちゃんを抱きかかえながら、征爾がやって来た。 「えっ……?誰の子……?」 陽人が目を丸くして尋ねた。 「僕の従姉妹の子供だよぉ。ちなみに旦那さんは、せいじぃの弟なんだぁ」 「成都そっくりで驚いたよ。成都の子かと思った……」 「よく、言われる。ママって呼ぶしねぇ。本当、可愛いくて仕方ない。何でも買ってあげちゃうし、かなりの姪バカだよぉ」 「みんな主役が集まるのを、待っていたんだぞ。ほら、急いで」 「わかってるって」 「待たせて、悪ぃな……」 案内されるまま、用意されたテラス席へ足早に向かう。 「おめでとうございます。ハル先輩、ユズ先輩」 「これェ、稀瑠空と俺と仔猫達で選んだやつだからァ」 益々美しくなった稀瑠空は、今や世界的なモデルだ。 そして、相変わらずチャラい絢斗だけど、稀瑠空をモデルに描いた超写実の絵画で賞をもらい、世界的なアーティストになってる。 二人は今、東京の超高級ペントハウスに住んでいて、仔猫達三人もそこに一緒に住んでいた。 絢斗と稀瑠空はパートナーシップを申請済みで、仔猫達は内縁の妻みたいな感じだ。日本の憲法では許されてないけど、一夫多妻制を貫き通してる。 「きるあ、俺と付き合ってよォ」 「じゃあ、俺は、なっちゃん」 「俺は、ゆずきちゃんにするゥ」 「えっ!?チビ絢斗が三人?」 「あー、俺と仔猫達の、子供ォ」 「中身までケンティーに似てるから、マジ困る」 「稀瑠空大好きぃ、可愛い子大好きぃだからねー」 「この間、保育園で二股してて、その子の親からクレームきたしぃ」 「ははっ。絢斗と稀瑠空の所も賑やかだね」 「賑やかすぎて、困るくらい……絢斗とチビ達で毎日俺の取り合いするから、本当、疲れる……」 呆れたように頭を押さえる稀瑠空の左薬指には、プラチナのリングが輝いていた。 「おめでとう…ございます……陽人先輩、柚希先輩……」 大夢は失声症を克服して、喋れるようになっていた。それでも、喋るのは苦手みたいで、声が小さくてたどたどしい喋り方だ。 今は売れっ子のゲームプログラマーをしながら、家業の農業を継いでいる。 「初めまして。大夢のパートナーの花守詩音(はなもり しおん)って言います。目が弱くて、サングラスかけてるんだ。折角のお祝いの席なのに、無礼な感じですみませんっ」 申し訳なさそうに軽く頭を下げると、詩音はサングラスを外す。 「瞳の色、綺麗だね。詩音くんて、妖精みたい」 「よく言われる」 詩音はアルビノで、白い髪に透けるような白い肌、グレーに紫を帯びた瞳で美しい顔立ちだ。 屋外で目が辛いのか、すぐにサングラスをかけ直す。 「大夢も素敵な伴侶が出来て、良かったな」 「うん……」 「俺こそ、こんな可愛い妻と一緒になれて、果報者です」 「そ、そ、そんな事、言わないでっ……みんなの前で……恥ずかしいよ……」 幸せそうな甘々な二人に、俺達も甘い気持ちになった。 「遅れて、悪ぃ!」 遅刻してきた友紀が、申し訳なさそうに小走りでやって来た。 「柚希、陽人、おめでとう。これ、家族みんなで選んだんだぜ」 「ありがとう。足、大分動くようになったな。本当、良かった……」 「あぁ、後遺症もほとんどないしな」 友紀から、プレゼントの入った紙袋を受け取る。 「来たのは、友紀だけか?」 「バタバタしてて悪ぃな、征爾。嫁さんと……」 ギャーとか、キャーとかいう…… 怪獣のような甲高い声が幾つも近付き、耳をつんざきビリビリする。 「大きい声は、ダメだよぉ。静かにして」 「はーい、ママ」 「柚希!俺の嫁さんの桃葉(ももは)と子供達だ」 「可愛い奥さんだな!子沢山で、友紀幸せそうじゃん」 「どーも。柚希くん、初めましてぇ。旦那がいつも、お世話になってます」 「あれェ?愛華じゃん。お腹デカいなァ。何人目ェ?」 「愛華って……源氏名はやめてよー、ケンティー。お腹の子は7人目……?ん~、双子だから7人目と8人目かなぁ……」 「もう……お兄ちゃんちの子供、やんちゃすぎだよ……」 「友紀くんちの子、パワフルだわ……」 「みんな、静かにしなさい。ここは、お祝いの席だ」 子沢山の友紀一家の子守りに、莉奈ちゃんと彩ちゃんと近衛がかり出されていた。 走り回るヤンチャな子供達に、三人ともクタクタだ。 「えー、では俺が代表で。陽人、柚希、結婚おめでとう!」 「「「おめでとう!!!」」」 「そして、遅くなったが、陽人。白金市の市議への当選、おめでとう。念願の夢が叶ったな」 「ありがとう」 「はるはるすごいよぉ。市議になってすぐに、マニフェストの『パートナーシップ制度』を導入したんだものねぇ」 「市内で一番最初に、二人が申請したんだよね。市議が市民に、一番を譲らないなんて……なかなか、ゲスいよね。そういうハル先輩のゲスさ、好きだけど」 「だって、俺と柚希が、一番先に幸せになりたかったからさ」 「本当、陽人は負けず嫌いだから……何と戦ってるんだよって、たまに思う」 「昔から、一番が好きなんだよ」 「みんな遠慮せずに、料理どんどん食べてねぇ。まだまだ他にもあるし、デザートもあるからねぇ。ドリンクも飲みたいのあったら、言ってよぉ」 賑やかで、楽しくて…… そんな時間は、あっという間に過ぎてしまった。 あまりに楽しすぎて、年末年始辺りにまた集まろうって話になった。 みんな揃って顔を出せる日が、今から楽しみで待ち遠しかった。

ともだちにシェアしよう!