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第10話

「後ろ、掴まっててね」  黒狼はしゃがみ込むと、彼の前を寛げて口へと含んだ。余りの想定範囲外の行為に、セツが思考停止している間に彼の口内が弱い部分を擦り上げる。 「……んっ」  なんでこんな目に。引き剥がそうにも背後は幹に阻まれ、片手で腰をがっちり抱え込まれていて動けない。  ぞくぞくと震える身体。蕩けそうな程気持ちがいい。木の幹に背中を預け、目の前の黒い髪を抱えるように手で触れる。ともすれば出そうになる声を押さえていると、不満そうな視線と出会った。誰が声なんか出すかと額を小突く。  ロウヤは恨めしそうな目を向けると、手で袋を揉みしだくと同時に勢い良く吸い上げて来た。さすがに堪えきれず、白狼は大きな声で啼く。激しくなる愛撫に立っているのがやっとだ。何でこいつこんなに上手いのかと、途切れそうな意識の中そんな考えと想像が浮かんで余計ムカついた。 「ロウヤ……離せ」  そろそろ熱を堪えるのも限界だ。みっともない姿を晒すのは業腹だが、このままブチまけてしまうよりはマシだろう。だが自分を見上げるキラキラ輝く悪戯な瞳に、セツはそれが叶わない事を悟った。と同時に与えられた強い刺激に、とうとう彼の熱が弾ける。  解放された余韻に呆然としていた白狼は、コクリと喉の鳴る音に我に返った。黒狼は彼を見上げながら、ぺろりと赤い舌を出して唇を舐める。ご馳走さまといった満足げな表情だ。 「ちょ、お前!」  セツの乱れた服を整え、立ち上がったロウヤの襟元を掴む。睨みつけているのに、きょとんとした表情で見返されて顔が熱くなった。何を平然としてやがるんだこいつは。 「セツ可愛かった」  それどころか、掴まれてるにも関わらず、ぎぅと抱き締められる。ふにゃふにゃと緩んだ表情で顔中にキスされて、何だか怒るのも馬鹿馬鹿しくなって来た。  昔から弱いのだ。この生意気で可愛い弟に。もう既に弟と呼べなくなってしまったようなのだが。  じゃぁ、なんて呼べばいいのだろう。  そう思って目の前の黒狼を見る。真白な月光の下、ため息が出そうな程綺麗な顔をした彼のロウヤ。 「セツ、好きだよ。愛してる。俺の番いになって下さい」  ヒトの耳と獣の耳が拾う、心の中に響く声。愛する人を呼ぶ、偽りのない彼の本心。外見は成長して変わっても、想いと自分を見る強い眼差しは変わらない。  あぁ、敵わないなと、素直に思う。  ――それでも。  セツは苦笑すると彼の耳元に顔を寄せ、唇を開いた。

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