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第9話

「ヤダって……」 「最後までしないから。少しだけ、ね。セツが俺のになったって、見せつけてやらないと」  その言葉に我に返る。里の外れとはいえ、ここは外だ。そもそも今夜は呼霊の儀式の最中。ロウヤのところに行くことしか頭になかったため、周りの様子に注意はしてなかったけれど、自分たち以外に人がいても不思議ではない。  気づいたとんでもない事実に、羞恥で死ねるなら、今すぐ死んでしまいたいと思う。そろそろ夜も更けて、人の姿も(おぼろ)になって来てはいるものの、人狼は夜目が利くのだ。人家から離れているとはいえ、こんな見晴らしのいい丘の上など目立つことこの上ない。 「大丈夫、ほとんどのヤツらは自分のことしか頭にないよ」  腕の中で恥ずかしさに悶えるセツの考えを察したのか、安心させるように言う黒狼。しかしセツは先ほどの『見せてつけてやらないと』と言った彼の台詞を忘れていない。 「も、ヤダって……んぅ」  先端を引っかかれ、身体がビクリと跳ねた。温かい手に包まれ弱い部分を扱かれて、止まっていた涙がまた零れる。それを唇と舌で拭われ、文句を言うために開いた唇ごと舌を吸い上げられた。上と下から耳を犯す水音。小さい頃はオシメも替えてやったのに、その相手にこんなことをされるなんて。なんだか悪い夢でも見てるみたいだ。  引き剥がしてやろうと相手の髪を掴むものの、手の動きに応えるように、ぎゅっと黒狼を引き寄せるような形になってしまう。  後で覚えてやがれと小さな声で罵ると、怖いなぁと笑われて、余裕綽々とした態度がまたムカつく。俺の可愛い弟は、一体何処へ行ってしまったんだ。それともそれはセツの幻想で、彼は元からこんなに意地悪だったんだろうか。 「……っ!」  唇が離されてホッと息をつくと、目の前の不機嫌そうな表情を見上げる。 「セツ、噛むとかひどい……」 「ひどいのはどっちだよ」  手加減はしたはず……多分。牙も立ててないし。痛むのか、ちろと赤い舌が見え、先ほどまでの出来事を思い出して背筋が震えた。だが離れたのは唇だけで、下はまだ素肌に触れられたままだ。離せと睨むと、肩を押されて背が幹に当たる。  にっこりと得意満面の笑顔。薄闇にも溶け込まない射干玉色の瞳が煌めく。セツは知っている。これは彼が悪戯する前に、昔からよく浮かべていた笑みだ。散々振り回された身としては、嫌な予感が拭えない。やっぱり可愛い弟は彼の幻想だったようだ。

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