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第8話

「やだ」  ふるふると、振られる首。  声は片方の想いだけでは届かない。ここに来たのが答えだと言うのに、意地っ張りなこの人は、往生際が悪いことこの上もない。 「キスしていい?」 「ダメ」  そう言いながら閉じられる瞳。どっちなんだと笑いながら、遠慮なくと憎らしい口を塞いだ。爽やかな香草の匂いがする。蕩けてしまいそうな程、甘い唇に酔ってしまいそうだ。もっと味わいたいと腰を引き寄せると、足の辺りに彼の尻尾が絡まった。尻尾は素直らしいと可笑しくなる。 「……んぅ」  ロウヤの手が腰から背中を撫で上げる。時折息を継ぐように離れる唇。拒絶の言葉を言いかけるとまた塞がれて、なにをしているのか、段々と解らなくなってきた。  身体の奥の方から熱が沸き起こり、毒のように全身を侵してゆく。身体のあらぬところが熱くなって、先程とは別の意味で泣きたくなる。  身体はとっくに彼に陥落して、もっともっとと求めている。本当は解っているのだ。初めて自分を求められた時から、既に彼を弟だとは思えなくなっていたことを。サイガに感じていた穏やかな、幼い想いとは違う。だから怖くなって蓋をしてしまった。  道理で誰の声も聞こえなかったはずだ。セツはとっくに選んでいたのだから。  それでも今更彼相手に認めるのは悔しいと、桜色に染まった頬を膨らませて相手を見つめる。ずっと面倒見てやった、年下相手に翻弄されるなんて、ちっぽけなプライドが許さないから。 「……やっ」  いつの間にか上着の裾がはだけられ、素肌に直接体温を感じた。脇腹の辺りを撫でられ、思わず上がる声。 「なに……、んっ……」  相手の腕を押さえて黒狼を咎めるように睨むと、面白そうに輝く瞳と出逢う。完全に楽しんでやがる。 「阿呆……っ、離しやがれ」 「やだ。もっと見たい」  まるで新しいオモチャを手に入れた子供のような表情に、冗談じゃないと思う。脇腹から素肌の感触を楽しむように背を撫でていた手は、いつの間にか腰を支えるように回され、反対側の手はお腹から更に下へと伸びた。 「止め……っ!」  服の下でやわやわと握りこまれ、息を詰まらせる。 「セツ、可愛い。もっと可愛いとこ見せて」  ちゅっと、音を立てて髪にキスされた。この阿呆、人の話を全然聞いてやがらねぇ。押し返そうと厚い胸板に当てた手は、力が入らず縋り付くように相手の服を握り締めた。

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