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第12話
「おやおや」
ルークが帰った後、マーチンはヴィスタのいる教会を訪れていた。
「何か御用ですか?」
人間の姿で、教会に張られている巧妙な結界から少し離れてマーチンはヴィスタと対峙していた。
「どうぞ、入ってきてはどうですか?」
「冗談だろ、こんな結界の中に入ったら火傷しちまうよ」
この人間は、自分の正体に気付いている。マーチンは、人間を今まで沢山見てきた。それ故に自分の人間を見極める嗅覚に絶対的な自信がある。ヴィスタは、危険だ。マーチンは初めて遠くからヴィスタを見た時直観的にそう感じた。
「どうしたらこんなおぞましい程に強力な結界が組めるんだよ。教えてもらいたいね、悪魔がそんなに怖いのかい」
「怖いんじゃない、憎いんです。悪魔なんて大嫌いです。私は聖職者ですよ?」
ヴィスタは、前にマーチンが見た時ルークに見せていたような笑顔ではなく、恐ろしい程冷たい表情をしてマーチンを見つめていた。
「・・・ルークの正体知ってんだろ。何を企んでるんだ。どうしてルークはこの教会に入っていけるんだ」
「・・・この教会は心が穢れ、脳が腐った邪悪な存在、悪魔を入れないようにする結界ですから」
「だから、じゃあ何でルークは入れるんだって聞いてるんだよ」
マーチンは、苛立った声でそういった。
「ルークは悪魔じゃないからですよ」
「はあ?」
「ルークは、私の可愛い天使です。あなたですね、私のルークに変なことを吹き込んで、私とルークの神聖な儀式を邪魔したのは」
ヴィスタは、マーチンがぞくりとするような表情で、マーチンを睨みつけた。いつもルークに穏やかなヴィスタだったが、今回は明確にマーチンに敵意を見せ怒りを露わにした。
「やっぱりルークに何かしてやがったんだな。てめえみたいな人間が一番嫌いだ。偽善を振りかざしてバカなルークを言いくるめて騙してやがるんだろ」
マーチンがヴィスタに指を指してそういうと、ヴィスタはすっと目を細めた。
「あなたこそ、ルークのなんです?」
「あいつはオレのおもちゃなんだよ、泣き虫で愚図でドジでのろまでおまけにバカ。見ていて楽しいだろ?」
マーチンの言葉にヴィスタは顔をしかめた。
「ルークは私の可愛い天使です。それがおもちゃですって?ルークの自尊心が育たなかったのはあなたがいじめたからですね?」
ヴィスタは、怒りに満ちた表情でマーチンを睨みつけた。ヴィスタは悪魔がたじろくくらい禍々しい憎しみと怒り、混沌とした感情のオーラを纏っていた。
「てめえだってルークに何か吹き込んで企んでやがったんだから一緒だろう」
「そうですねえ・・・でも、あなたと違って私は彼をとても大切にしています。彼を愛していますから」
「聖職者が悪魔を愛している、だと?笑わせるな。だったら余計に邪魔するね、オレは恋路の邪魔をするのが得意なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「!!」
殺気、マーチンはヴィスタの殺気に飲み込まれそうになり急いで飛びのいたが、もう遅かった。
「あぁ、本当に、悪魔って生き物は憎々しい。私とルークの邪魔をする、ですって。あぁ、そんなの許すわけないでしょう?」
ヴィスタは、自分の懐から拳銃を取り出した。
「私のルークに変なことを吹き込んだことは許されませんね。あなたには、消えてもらいます」
ヴィスタは、容赦なく引き金を引いた。
「そんなおもちゃの銃が悪魔に効くと思ったのか?」
マーチンは上手く飛びのいて避けたかに見えたが、ヴィスタは懐からもう一丁の銃を取り出し撃った弾丸が、一発だけマーチンの肩にかすった。
「・・・・!ああああああああああ!!」
一発、弾丸が肩をかすっただけで、マーチンの肩はじゅわっと焼けこげ、真っ赤にただれた。痛みに肩を押さえ顔をしかめるマーチンに対し、ヴィスタは冷静だった。
「この弾丸は、特殊な弾丸なのですよ。私、昔エクソシストをやっていたことがありますので」
ヴィスタは、氷のような冷たい表情でそういった。
「お前・・・まさか、噂で聞いたこと・・あるぞ」
マーチンは、肩を押さえてよろめいた。
「昔エクソシストの中でも最高職にいたとされ、悪魔が出会ったが最後確実に滅殺される。破邪の2丁銃使いと言われた・・・」
ヴィスタは、よろけたマーチンに容赦なく弾丸を撃ち込み続け、微かにルークという声が聞こえなくなるまでぐちゃぐちゃに溶かした。
「私以外のことでルークが泣くのが嫌なんですよ。私以外のことでルークの心が動くのが嫌なんですよ、私以外がルークの名を口にするのも心底不愉快なんです。私の愛しのルークにもう関わることがないようにしっかり滅しますね。この世に生きていた記憶さえ消し去るくらいに」
ヴィスタは、残骸になったモノを見下ろすと、やっと銃を下ろした。
「あぁ、汚らわしい」
そして、心底不快そうにそう言った。
「それに嫌なことを思い出しました」
ヴィスタは、腹が立つ程快晴な空に吐き捨てた。
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