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第7話 虹と自分の気持ちと
冷たい雨が止み、空が白々と明るくなる頃、ロイが随分安定した呼吸とともに、言葉を発した。
「北見先生……、ね、カーテン、みんな開けてみて」
「え?」
ロイに言われて見てみると、カーテンが少しだけ開いている。
「早く。じゃないと、消えちゃうよ」
「?」
俺は訳が分からないままにもカーテンを全開にすると、窓の外に大きな虹がかかっていた。
「……ね? 綺麗、でしょ? 僕の位置からだとカーテンの隙間から除く虹がよく見えたんだ……」
「ああ、ほんとだ。虹なんて見るの、随分久しぶりの気がする」
「うん……僕も。でも幸せ」
「え?」
「先生と一緒にこんな綺麗な虹が見れて……これってすごいいい思い出になるよねー……」
「ロイ……」
ロイの大きな瞳は真っ直ぐに七色の虹を見つめ、口元にはふんわりとした微笑みをたたえている。
発作は完全に治まったようで、俺は胸を撫でおろした。
だが、その一方で彼が口にした『思い出』という言葉がちくりと胸に引っかかった。
あとどれくらい俺とロイは思い出を作ることができるんだろう?
そして人生の全てが思い出になってしまう日がやって来るのはいったいいつなのか?
ロイとともに虹を見つめているうちに俺は気づいた。
まだ出会ってからそれほど時は経っていないし医師と患者という関係でもある。
年の差だって一回りある。
それでも。
俺はこの健気な少年に恋い焦がれていると。
君が苦しむ姿は見たくない。
君が笑ってくれるなら、なんだってする。
自分の命より、君の命の方が大切……。
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