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―8月6日水曜日―

照りつける日差しを窓から感じる度、直弥の脳裏に大介の顔がふとよぎる。 (こんな暑い中、肉体労働した後なのに俺の事じっと待っているなんて) 窓から階下を眺めに行きたくなる衝動を堪えている。 心配していたら“ぼんやりするな!”とキツく当たってくる部長に、グチグチと怒られた。 定時が過ぎると社内業務もそこそこに、会社を後にする。 部署を出る前一瞥くれると、小言をくれた上司に鬼の様な形相で睨まれた。 直弥は背筋を一瞬凍らせながらも足を急がせる。  *   *   * 「ちっす」 予告を裏切ることなく、今日もその姿はあった。 昨日直弥に見せた安堵の表情も同じだった。 「今晩は」 直弥が来るなり、大介は心得たのか今日は率先して歩き出した。 昨日までの直弥を受け継ぐかの様に、自ら会社から一本違う通りに入る。 「今日は残業じゃなかったんだ」 「ああ。それより、いつからここに来てるのか知らないけど、長い間突っ立ってたら熱中症になるよ」 「あー大丈夫。頭焼けてもこれ以上バカになんないから」 大介は薄茶けた髪をガシガシと掻き上げる。 「心配してくれたんだ」 直弥もつられて色の入っていない黒髪を指から滑らせながら、掻き上げた。 「別に心配って訳じゃ。ただ俺は、ダイスケ君が倒れてても、おぶってはやれないからな」 出会ってから初めて、お互いの顔を見て声を出し笑い合った。 「昨日さ、オレの話しただろ」 「あぁ、それが?」 「今日はタナベさんの番」 大介は少し背を屈めて直弥の顔を覗き込んだ。遠慮無く見つめられ、直弥は無意識深い碧の瞳を曇らせた。 「なんだよ?オレの番って」 「だから、タナベさんの事教えてよ」 「何を?」 「何で……」 言葉の続きを待たれる間に、直弥は不快感を露わにした。 「何にも、話す事はないよ」 抑揚無く答えた。 誰が見ても優しく大人しげに感じる表情は強張っている。けれど大介は驚きもせず、その様子をマジマジと見ている。 「何もない事無いだろ」 「無い。この通り働いて、寝るだけのルーティンワークだ」 俯いた直弥の額に営業用にセットされた前髪がハラリと落ちた。 「好きな人とか付き合ってる人とかは、いねーの?」 「……帰る」

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