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―8月19日火曜日―
「ダイスケ君、」
「何?」
「俺の名刺……今持ってるかい?」
「あー勿論」
またもや語尾を聞かず即答と共に、目の前に出された自分の名刺。
随分くたびれている名刺からは、大介の体温が感じられる様だ。
「肌身離さず持ってる。まさか…没収するのか?返してくれよな!」
「返すさ」
直弥は胸ポケットからボールペンを取り出し、名刺に書き込みだした。
大介はその姿を食い入る様に見ている。
「すんげーキレー……」
(”キレー”?! 何が?!)
少し斜めに俯き、ペンを走らせていた直弥の手は、大介の呟きを聞き動揺し、書き損じた。
「はい」
大介に返した名刺に書き加えられていたのは、何カ所か黒く塗りつぶしているが、並んだ数字。
「”遅すぎるー帰ったのか?” とか思ったら、かけておいで」
「これ、ナオヤさんの携番? マジで!!」
切れ長の目と大きな口をめいっぱい広げて、大介は叫んで喜びを表した。
「夜中じゅう待たれちゃ、俺も気になってしょうがないし。それに、キミをストーカーと思っちゃいない証拠になるだろ」
「あーーー! クッソ嬉しい!!」
しがないサラリーマンのたかが名刺一枚で、飛び上がる程喜んでいる大介に、直弥は気後れする。
大介は大事そうにポケットに名刺を仕舞った後、財布をごそごそ探り出した。
「ナオヤさん、ペン貸してくれっ」
レシートの裏に、必死で何かを書き出した。
痩せてはいるが骨格の大きな身体を小さく丸め、書きにくそうだけれど、一生懸命な姿を見て可愛いな、と一言が無意識に直弥の口から飛び出しそうになる。
「貰って」
「何だい、それ?」
直弥の目の前に突き出された小さな紙には、お世辞にも綺麗とは言えない字で、名前と住所と電話番号が書いてあった。
「俺の、名刺」
「……遠慮しとくよ」
「ヒッデー!!」
人気のない道に、大きな笑い声が響いた。
直弥は突き返すフリをしながら、ヨレヨレの紙を受け取り、名刺入れに仕舞った
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