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―8月26日火曜日―

「暑……」 直弥はいつもの筋違いの測道にある段差に腰を落とす。 大介を待って、十分と経たずにへたり込んでしまった。 夕方とはいえ、湿度も高く噎せ返る様な暑さはぬぐえない。昨夜寝ていないせいもある。仕事終わりのせいもある。 だけど、直弥は調子を差し引いても十分でねを上げた自分に歯噛みした。 いくら若いとは言え、大介は一体毎日何十分,何時間待ち続けれくれていたのか。台風の最中でさえ。 冷房の効いている社内で、つまらない事でぐずり、わざとダラダラと過ごしたりした自分が、今改めて疎ましく感じる。 額に拳を当て、項垂れている直弥は肩を叩かれた。 「?」 (……大介?) 一瞬の喜びは、瞬間で消えた。 ビクリと身体が強張ったのは、無意識の反射神経。 大介ではない。 何年も触れられ続け、刻まれた感覚だった。 「何してるんだ」 声をかけられ、顔を上げた直弥は顔を顰めた。 夕日を背に、遙平が立っていた。 「別に、何もしていない」 直弥は徐に立ち上がり、ズボンをはたいた。 「こんな所で、何もしていないって訳無いだろ」 相変わらず抑揚の無い淡々とした語り口だけれど、徐々ににじり寄られ、人気のない路地で直弥は行き場を失う。 「お前こそ、何しに来たんだよ」 「直弥を捜しに」 いけしゃあしゃあと言ってのける遙平に、直弥は怒る気も削がれる。 「あの時の高校生は居ないの?」 「お前には関係ないだろ」 「心配なんだ」 「ど、どのツラ下げて、そんな事言える、」 不意に手首を掴まれ、直弥は身体が硬直する。入社以来付き合ってきた。最初に声をかけて来たのは遙平。 でも、本気になってしまったのは、直弥。 何度も浮気された。無碍な扱いも受けた。いくら怒って泣いた所で遙平はいつも何処吹く風だった。 だけど、好きだった。 突然フラれた。しかも直弥の知っている相手と既に付き合いだして。 ”世間体を気にする訳じゃないけど” ポツリと言った遙平の気持ちも解る。解るからこそ責められはしなかった。 直弥の事は嫌いになった訳じゃないと言った。 だけど呆れる程ためらいもなくアイちゃんの事を、直弥に告白してきた。直弥の事も嫌いじゃなく、そしてアイちゃんの事は本気で好きなんだろう。そう言う奴だ。 そんな遙平だって勿論良い所はたくさんある。しょうがないなと思いながらも、いつも最後は許して続いてきた。 遙平の懐かしい香りに包まれた時、直弥は軽い目眩に襲われ、ふらつく。 理屈じゃない感情が,思い出が、直弥を深い渦へ誘う。正気を取り戻す為、直弥は何度も首を振った。 「心配なんだ。俺のせいなんだろ?」 「自惚れんな」 直弥は遙平の腕を振り払った。 「俺の心配なんか要らないんだよ。お前はアイちゃんを大事にしてやれば良い。嫌味でも妬みでもない。今は本気でそう思ってる。幸せな家庭を築けよ。 だけど、俺には無理なんだ。女は好きになれない、お前とは、違う」

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