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8月27日水曜日
朝、気怠すぎる身体を引きずり、会社最寄りの駅へと着いた。
直弥は暫く立ち止まった後、小さな紙片を握りしめ、反対方向へ歩き始めた。
* * *
「ヮ、ワッ!」
門の中を少し覗いた所で犬に吠えられ、直弥は飛び上がる。
細く息を吐き、緊張した指先でインターホンを押す。出迎えてくれたのは、明るい女性の声だった。
「あの……」
スーツ姿で初めての訪問者に対して、訝しげな目で全身を見回された。当然だろう。
「あ、セールスだとかではないですから!」
直弥はすかさず否定する。
「でしたら、どう言ったご用件で」
「えっと……ダイスケ君の友人です。いらっしゃいますか?」
関係を問われ直弥は咄嗟に口走った。
「友人?」
まだ怪しげな視線は消えては居ないが、少し安心の色が見える。
「少しお待ち下さいね。大介ー!!」
階段に向かって呼びかけるが、返事はなく。
「ここ何日も閉じこもりっきりで……いつもは頼んでも、ひとときだって家でじっとしてくれないのに」
少し困った表情で大介の母親は、トトトと可愛らしい音をさせながら階段を上っていった。
「大介! 大ちゃん! 大きなお友達が見えてるわよ!」
二階から、叫ぶ声が聞こえた。 ”大きなお友達” と称され、直弥は苦笑する。
返事は無いらしい。間もなくまたトトトと階段が音を鳴った。
「私が呼んでもダメだわ。勝手に上がって下さいな。鍵はかけてないんだけど、入ったら怒られそうだし。なんならドンドン叩いてやって構いませんから」
ホホホと口に手を押さえ、大介の母親は奥へと消えていった。
一人玄関に取り残された直弥は茫然としたけれど、暫く躊躇った後、革靴を脱ぎ丁寧に並べた。
母親が叫んでいたドアの前で直弥は深呼吸し、弱々しくドアをノックする。
「……んだよ、何度も五月蠅いな!」
紛れもない大介の声だった。
「大ちゃんって呼ぶな! ガキじゃないんだから! それに一体、”大きなお友達”って何だよ……」
直弥は恐る恐るドアを開ける。
「ダイスケ君、」
「もう! 勝手に……?! ナ、ナオヤさん?!」
驚ききった大介が佇んでいた。
勉強椅子に腰掛けタオルを頭に巻き、抱き締めているのは、猫。
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