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8月28日木曜日

「……それ、どういう意味だよ」  大介の声色が、変わった。 「勿論あいつらは大事だし、俺にとって家族だ。でもアンタを俺が、犬猫と同じ扱いしてるって思ってんのか?」 「そう言う意味じゃない……ただ、ダイスケ君は優しいから」 「アンタ、俺より8つも長く生きてて、バカじゃねーか?」  遙平に掴まれた手首を、今度は大介に捻り上げられた。 「俺はホントにバカだけど……いくらバカでも犬猫拾うみたく人を拾うかよ!」  直弥のセットされていた前髪がハラリと落ち揺れる。 「だって、『性格上拾った』って」 「言ったさ。でも、それは……」 「なに?」 「あーー! もういいや! 今更隠してもしょうがないし。 ……したんだ」  台風でも無いのに、大介の声は消え入りそうな小ささで、語尾しか聞き取れない。 「一目惚れしたんだ。道に落ちてたアンタに」 「こんなの生まれて初めてだったけど……好きになったんだ。だから、アンタを放ってなんておけなかった」  大介の眼差しは、今まで見た事の無い程真剣だ。 「だけど、直ぐに失恋した。おぶって30分もしねーうちにナオヤさん、男の名前呼んで泣き出したから……」 「ダ、イスケ君」 「男好きになって連れて帰るオレもどうかしてるけど、直ぐにアンタが誰かの事好きだって、しかもそれは男だって解って…… あり得ないと思ったけど、どうしようもねーじゃん。だから、最初は必死に諦めようとしたけど」  左手で手首を掴んだまま、大介は右手で直弥の髪を掻き上げる。 「やっぱ、好きなんだ。アンタの事」  大介の告白に、直弥は声も出ない。 「好きなんだ。マジで。世界で一番。一目惚れだけじゃない。知れば知るほど全部、好きで……一生大事にする。オレはアンタだけを」  直弥の歳になれば、重くて気恥ずかしくて口に出来ない言葉を、大介は渾身の想いを込め、直弥に告げる。  掴まれた手首から脈まで伝わって、直弥はどうにかなってしまいそうだ。 「明日……オレ、誕生日なんだ」  大介はそう言って直弥の手に本当に愛おしそうにキスを落とした。 「あ、明日?」  大介の突然の科白に、直弥は驚きを隠せない。 「来てくれるよな?」 「ダイスケ……」 「オレの気持ちは今日バラした。オレの事、嫌いじゃなかったら……今日みたく、来てくれるよな」     *   *   *  直弥は家に着くなり、ベッドになだれ込み、天井に向かって、腕を掲げた。  大介の言葉が、頭の中を跳ね回る。けれど遙平が、影を落とす。  また、眠れない。

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