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8月30日土曜日

 *  *  *  起きてから初めて視界に入ってきたのは、傍らで肘をついて居る大介。 「おはよう……」 「おはよう。ナオヤさん」 「いつから……起きてた?」 「ん、ずっと起きてたけど。だって、嬉しくて寝らんなかった!」  大きな口を目一杯横に開け、大介は笑顔を見せた後、シーツに突っ伏した。  陽もすっかり高く、昨夜の泥沼から精神的に復活している直弥は、なにやら気恥ずかしい。 「寝てない?! 何してたんだい!」 「ずっと、顔見てた」  大介はベッドに顔を伏せったまま「アーーーー」と低い声で唸りだした。 「ひ、一晩中?! 冗談だろ?」 「いや、マジ。飽きねーって。だって、この寝顔に一目惚れしたんだもん。オレ」  大介は横を向き、眼を細め直弥の顔を眺めながら、頬を指先で撫でる。 「は、」  直弥はぽかんと口を開けたまま、自ら赤面を感じていた。 「だけど、あん時より昨日の方が百倍キレーしカワイかったけど。これから、俺、いくら見たっていいんだよな!」  大介はまたベッドに突っ伏し唸っている。 (こ、これがジェネレーションギャップか? 俺、やっていけるだろうか……)  直弥はベッドからズリ降り、フラフラと洗面所へ向かい、上気した顔を水で冷ました。 「直弥さん、俺、一旦帰るわ」  大介の声に部屋に戻ってきた直弥は、包まれていたタオルから顔をあげた。 「外泊したからか、親から電話あって……親父が出張から帰ってきたみたいでうるせーし」 「あ、あぁ」  親  外泊  と言うワードに、相手が高校生だということを、再認識させられる。  この違和感に暫く慣れなければと、まだ回らない頭で直弥はボンヤリかんがえる。 「俺は怒られたって、どーでもいいんだけどさ…… イヤじゃん、自分の親に直弥さん悪く思われて嫌われたら。これからも困るし」  大介は自分の携帯を、指で弾きながら真面目な顔で呟いた。 「ダイスケくん……」  直弥はもう一度、タオルに顔を埋めた。  常に直弥の事を、何より考えてくれている。  子供だと認識しなければと思った自分の方が、子供じみたプライドを持っていて、恥じる。 「昨日……今日は、悪かったな。親御さんにも、謝っててくれ。よろしく頼むよ」 「りょーかい。直弥さん、今日はもう帰るからさ」  大介が珍しく、不安げに伺い見る。 「明日も来ていいか?」 「……あぁ勿論。おいでよ」  直弥は笑顔で答えた。 「じゃあ、また、明日!」 「……あ!! ちょ、ちょっと待て!」  飛び上がらんかの勢いでガッツポーズをしながら玄関に向かう大介を、直弥が焦って呼び止める。 「何?」 「大事なこと、聞くの忘れてた。昨日から、ずっと聞きたかったのに……思い出してよかった。 教えてくれよ。ダイスケ君の、ほんとの誕生日」

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