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8月31日日曜日 8月最後の日

 ピンポーン  ピンポーンピンポーン   ピンポーンピンポーンピンポーン  止まることの知らないチャイムの音で、直弥は徐々に覚醒させられた。  よろけて壁にぶつかりながらインターホンの受話器を取ると、大介がモニタに映し出されていた。 「ん……何時だ……」  遠くからラジオ体操のメロディが聞こえてくる。  _「ナオヤさん! 開かねえ!!」  画面の向こうの大介は直弥が出てくれた安心と、中に入れない不安で右往左往しているようだ。  _「勝手に入っちゃ悪いと思って、携帯鳴らしたけどでてくれねえし。部屋番と暗証知ってるから……押してみたけど、なんでか入れない。開けてくれよ!」  直弥はようやく目が覚めた。 「あぁ、ごめん。今日は起きてる時に来ると思ってて……部屋番の後、押してみて。ダイスケ君の誕生日4桁」 (昨日、暗証変えたんだ)  *   *    * 「ダイスケ君、パンもう一枚……」 「そうだナオヤさん、前から言いたかったけど。 今日きっかけにさ、”君” 取ってくれよ。ダイスケで良いや」 目玉焼きを刺したフォークの先を大介は振りかざし、直弥に忠告した。 「解ったよ。だったらダイスケ、も俺の事ナオヤで」 「あー呼びたいけど、我慢する。オレがちゃんと大人になったら呼ぶ。そん時は呼びまくるからさー」  ためらいもなく、まだ見えぬ未来の話を、自信満々でする大介が直弥は素直に嬉しかった。  同時に ”大人になったら” という言葉を聞き、瞬時に三年後と重暗い計算をしてしまった自分が嫌になる。 「なあ、ナオヤさん。今日一日中居て良い?」 「ダメじゃないけど……ダイスケ、宿題あるんだろ? 終わってるのかい?」  彼氏の宿題の心配をすることになるなんて、夏前には思いもしなかった。  直弥はカレンダーを仰ぎ見る。 「今日は夏休み最後だよ。終わってるんだったら、好きなだけ居ても良いけど」 「宿題、形だけ有るけど……高校なんて、自主学習が殆どだし、宿題みたいなもんテキトーでいいって」 「おいっ。あ、そういえばダイスケ。自由研究だけはちゃんとできてんじゃないのかい?  タイトル ”サラリーマン” っていうの。俺の事、観察するって言ってたよな~」   直弥はからかいを含めた皮肉を続けた。言われてカチンと来た時の事も、若干思い出してしまった。

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