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12月24日クリスマス

 淀んだ空気が充満している地下の一室から、地上に抜け出られた直弥は大きく深呼吸した。  二次会の人数を募る声を無視し、姿を消したことが気づかれないよう、煌びやかな灯りと賑やかな街に紛れて歩き出す。  時計を見る。  約束の時間には間に合いそうだ。  直弥は手に持ったまま出たコートに袖を通す。足を止めず、歩いたまま。  その足取りは次第に、気持ちとともに早まってゆく。  携帯を確かめたいけれど、嫌な社用の連絡が入っていたらと思うと、見る勇気がなくポケットに入れたままやり過ごした。     必死で約束の場所まで、人と人の間をすり抜ける。 「ちょっと、」  行きかう人々の中から、不意に腕を掴まれた。 「?」  「俺、通り過ぎて何処行くんだよ」   驚いて振り向くと、大介が笑っていた。 「アンタ、周り全然見てないんだな。俺は100m先でもナオヤさん見っけられたのに。手ぇ振ったのに。相変わらず、危なっかしいな。一人で歩かせてらんねー」  直弥は脇をホールドされ、軽々と回れ右させられた。腕を絡めたまま、大介は直弥を連れて歩き始めた。  「ダイスケ? なんでこんな所に……見つけるったって、こんな所にお前、居ると思わ」 「メール見てないのかよ。駅で待ってたけど、予定変更。迎えに行くって。あ、勿論店までじゃないけど。途中で会えたらって」 「ごめん、見れてないんだ。どうして? 時間はまだだけど結構待ったから? 寒いのに悪かったね」  今日は夜になって一段と冷えている。時間さえ間に合えばと思っていた自分の思いやりのなさに、反省する。 「いや違う違う、俺待つのは得意だし」 「知ってるだろ?」と、大介は直弥の顔を覗きこんで笑顔を見せる。 「駅前でこの格好で一人でずっといたらさ、年末で巡回してるみたいで、補導されそうだったから。 あー制服着替えてくりゃよかった。終業式の後、バイトそのまま行ったからなー」

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