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12月24日クリスマス
「恐喝?!?!」
二人の声がハモった。
「違います、違います!」
「んな訳ないだろーー!!」
首がもげるほど二人同時に横に振る。
突然の呼び声に促され、ビルの狭間から路地へと出た。
声をかけられた制服の大介と、その後ろには手首を掴まれ、髪が乱れたスーツの直弥。
巡回しているらしい、正義感の強い地域補導員に疑われた罪状。
言われて暫く、言葉が出なかった。
「二人は知り合いで、ただの立ち話です」と若干苦しい言い訳を懇切丁寧に説明し、なんとか解って貰い、解放された。
影を見送った後、二人は顔を見合わせ、ビルの反響で路地中に響き渡るほど、笑った。
「誰がかつあげ犯だ! マジで信じらんねーーー!!」
笑いが収まった後ふつふつとこみあげてきたのか、怒った時の癖髪をガシガシと掻き上げながら、大介が吼えている。
「親父狩りだと思われたんだよ」
「狩り? なんだそれ? それにナオヤさんは、親父じゃねーーし!」
怒りの内容がすり替わって、大介はまた怒り。
直弥はまだ笑いが止まらない。
キスしていた所でも見られていたら、また違う地獄が待っていたが
さっきの様子を遠目で見られたら、ビルの隙間でひ弱なサラリーマンが手首を捩じり上げられ、屈強な学生に金でも巻き上げられている様に見えたんだろう。
情けなさとおかしさで、衣服の汚れも気にせず、ビルの壁に寄りかかって笑い続けた。
「あー笑いすぎたら、ほんとにお腹空いた。早くご飯食べに行こう」
憮然としている大介の手を、今度は直弥が引っ張る。
「ダイスケ、よかったな」
「何が!」
「ご飯食べに行く前に、゛ややこしいおっさん等゛に捕まらなくて。冤罪で、捕まりかけたけどな」
直弥の冗談に、大介の顔に漸く笑顔が戻った。
「ダイスケも本当はお腹空いてるんだろ」
「え? いや、」
「俺が忘年会終わりで食べられないと思って、さっき『減ってない』っていってくれたんだろ? ありがとう」
素直に嬉しかったことを表すことも、大介が教えてくれた。
携帯の地図を見ながら、わざと大介に寄り添う。
後ろに立って歩きながら、大介は肩を黙って支えてくれた。
「にしても、犯罪者に間違えられたなんて初めてだ! 今年一番腹立った”! マ・ジ・で!」
本人に言うとまた怒りが増幅しそうだけれど、切れ長の目がいつもより鋭く座っていて睨まれたら、犯罪者も逃げそうだ。
「まーまー、ダイスケ。今年のヤな事は、今日で忘れよ。今から、二人で忘年会しよう。俺も、忘れる」
大介と一緒に居たら、忘れられる。
「ぼうねんかい、すんのか? クリスマスなのに。なんか、ムードねーな」
「あ、さっき邪魔が入って言えなかったけど」
直弥は足を止め、振り向いた。
「ダイスケと出会えた事、忘れるわけない。今年が終わったって、これから何が遭っても、忘れないよ」
(一生、忘れないよ)
ちゃんと目を見て言うつもりが、恥ずかしくて心が折れて、言葉の途中で大介の制服に顔を埋める。
大介に一瞬背骨が軋むほどの力で抱きしめられた。
「忘年会ていうのも、悪かないな。早く、行こ」
「あぁ。そうだね」
-クリスマスおしまい-
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