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2月8日日曜日
「マジきつかったって! おまけにぶっ倒れそうな程寒いし!」
直弥はカップのコーヒーに息を吹きかけながら、大介の愚痴をきいている。
マラソンの話をするなり、文句のオンパレードだけれど、久しぶりに逢い、会話しているという事実だけで幸せを感じる。
「あの日は確かに寒かったな。だけど大介、お前クロカン部だろ。寒いのは慣れてるんじゃないのかい?」
「また別もんだって。スキーしてると寒さ感じねーもん」
「勝手な言いぐさだな」
笑みを零した直弥のコーヒーが微かに波打った。
「笑うけど、ホントに大変だったんだって! それに俺、人の1.5倍走ったしなー」
「……1.5倍?」
聞き慣れない一言に直弥が反応した時、大介は切れ長の目を細め一瞥をくれた。
「ほら、何度か直弥サンに話した事あるだろ。榮って奴。俺の友達」
直弥は記憶の糸を辿り思い出した。大介の話を聞くと飛び出す固有名詞。
「あ、夏にホームステイしてたとか言ってた同じクラスの……確か同じ部じゃないのかい?」
会った事は無いけれど、話を聞くたびいつもイメージの存在を引き出す。
「そうそう、その榮がさー、同じ部って言ったって半分マネージャーで、人数合わせで籍置いてくれてるだけだから。アイツあんま運動得意じゃ無くて足も遅くてさ。なかなか上がって来ねーから迎えに行ってやったんだ。そしたら案の定、戻りかけてて」
「ダイスケ、一旦ゴールしたのに、わざわざ探しに行ったのかい?」
「まー心配だったしな。あいつ、『棄権したら絶交だ』って発破かけてやったのに……ったく」
癖のある笑い声が響き、今度は大介のコーヒーが揺れた。かわりに直弥の波は静かに止まる。
「へぇ、そうなんだ」
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