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2月8日日曜日
――直弥が入り得ない関係
行為に他意は無いのだろう。けれど、大介の誰をも何をも厭わない優しさに、焦がれている自分を感じる。いつもそんな動揺に反して、抑揚の無い大人の返事で取り繕う。
「だーけど! 手のかかる奴を引き連れてめでたくゴール。それにもちろん俺自体は、二位だし」
大きな口を目一杯広げ、大介は得意げな顔を浮かべ直弥に額をくっつける。影に覆われた直弥の手からカップを奪う。
「ナオヤさん、」
「……何だい」
「ご褒美は?」
大介の髪が頬に当たり、直弥は鼓動が高まる。
ねだって来る真面目な顔があどけなくて、愛おしさがこみ上げる。屈んでいる大介の首に腕を回し、引き寄せた。
「よく頑張ったな」
直弥が薄い唇を親指の腹でなぞると、大介は何か言いたそうに口を開いた。
言葉を発しない内に、直弥からゆっくりと口付けた。
下唇を摺り合わせたりと、緩いけれど長いキス。
頭の芯がジンジンとして、少し疼く様な感覚を持ち始めた時、大介は身を離した。
「ナオヤさん、有り難う。……大好きだ」
唇が離れた時、少し赤みを帯びた大介の口は笑っていたけれど、細められた瞳の奥は得も言われぬ愁いを帯びていて。
直弥はぼんやりしながらも、視線の端ではっきりとそれを捉えた。
「さー早く寝なきゃな。明日月曜、会社早いんだろ」
洗って程無い生乾きの髪を撫で、大介は立ち上がった。
何をするでもない。けれど帰る素振りはない。
「うん、そうだな」
背を向けた大介に、しがみつきたい衝動に駆られながら、直弥は寝室に向かった。
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