93 / 255
2月10日火曜日
今日学校は休みで、試験で校舎には入れないから、部活だけのために部室直行で登校する日だ。
授業もなく、朝のいつもの時間でもない登校。いつもなら楽しみの日、だのに。
榮の足取りは重い。
寒波とやらで、朝からちらつく雪と寒さに更に気分憂鬱でうんざりしながら、進まない歩を進める。
ポケットに大介の 忘れ物 を携えながら。
大介と朝連絡を取りあいながら、どこかで待ち合わせでもしたかったけれど、肝心の携帯は自分の手元にあるから出来やしない。
ゆっくり来たとはいえ、部員の皆が来る前にやり取りできりゃな、と思い少し集合の時間より早く来た。
大介が遅くても部室で時間つぶし、待てばいいかとおもいつつ……
「え、」
遠目でも見つけた。誰も居ない部室棟の一画、佇んでいる一人の姿。
「榮ーーーーー!!」
向こうは榮の姿を見つけるや、大きく手を振って出迎えてくれて。
寒風吹きすさび粉雪舞う中、室内にも入らずに……
(いつから待ってた? 何をそんなに待ってた? 大ちゃん)
自分の名前を呼んでくれているけれど、決して自分ではない、物を待ち焦がれていた大介の姿を、榮は白い息を多めに吐きだし、視界からかき消した。
「榮、ありがとな! マジ感謝!」
大きな口を開けて、嬉しそうに満面の笑みで出迎えてくれた大介の髪先は、凍っている。
「ほんとに拾って貰えて、助かった! それ無くなったら……俺……」
榮と大介の目は合わず、大介の視線は それ と称した物を、無意識で探しているのか榮の手元を彷徨っている。
「寒いし、早く入ろ。中で」
榮は、大介の視線ごと部室に招き入れた。
ともだちにシェアしよう!