96 / 255
2月11日水曜日
昨日と比べて穏やかな気候で、外出も苦ではない青空だ。
ひょんな出来事から、目的が出来た。
祝日の外出、大介の携帯を買いに行く。二人で。
――話が出たのは、月曜の夜。
雪の夜の中飛び出してゆきそうな大介を引き留めて、再び座らせた後だった。
名刺を一秒でも手元に戻したいという素振りの大介の気を紛らわせようと、電池がもたないという携帯の話題を出したら、話が盛り上がって、携帯を買い替えるという結論になった。
「ダイスケ、どれにするんだい?」
昨日営業回りついでに、各社のカタログを寄せ集めてきていた。狭いテーブルに広げて、チェックを促す。
「ナオヤさん、昨日忙しかったのに。これ、俺の為に?」
カタログの中身を見ずにカタログ自体に感動して、大介は机に置かれた全体を、嬉しそうに眺めている。
「いや、出先にあったし。今から見に行って実際見て回って決めてもいいけど、大体目星点けとけば……ちゃんと書類持ってきたかい?」
直弥も大介もよくわからなかったから事前に調べたら、未成年は親同伴じゃないと書類が要るらしい。
大介は本体を見ても頷ける通り、何年も前初めて親に手渡されたものをずっと使っているから、自分で買うなんて初めての事で何もわからなかった。
「あー勿論。めんどくさかったー。けど、親連れてくなんて事想像したら、何でもするし。ナオヤさんと買いに行けるんだしな」
「嬉しい」と隣でカタログを覗きこんでいる直弥の髪を、大介は長い指で梳く。
落ちた前髪を掻き上げられ輪郭が露わになり、その頬に額に尋常じゃない視線を感じた直弥は、羞恥に耐えられなくなり大介を軽くはたいた。
「早く、カタログ見ろよ。出るの遅くなるし。日が暮れるよ」
「あー、せっかく集めてくれたのに悪いけど、見なくても良いや。もう、決めてんだ」
直弥の横顔を見つめたまま、大介はカタログを閉じた。
「アンタと、同じのにする」
「……え?!」
大介に見つめられ照れていた事も忘れ、大介を凝視した。
「俺と同じのって、冗談だろ? ダイスケ」
直弥の携帯はビジネス用で、古臭い黒の二つ折り。正直、直弥自身持っているのも嫌な機種だ。
社用携帯は経費削減で支給されないから、仕方なく自分の携帯も好きに出来ず、仕事仕様モデルの携帯を使っている。
利点は個人のだから名刺に電話番号を記載しない事を許された位で、番号を誰彼なしにまき散らさずに済む。
直弥の営業内容は社内と懇意にしている取引先と、番号交換するくらいで事足りる。
仕事関係で唯一、遥平の番号は着信拒否登録した。
大介なんて制限なく、最新の好きなの選び放題なのに。
(高校生がこんなの、今から買って使うなんて。街行く学生でも見たこともない)
「どうして? こんなの、ぜんっっっぜんよくないし! お前が持つのおかしいし! 考え直せよ!」
友達と同じようなスマホにでもしろと、直弥の説得の言葉を背に浴びながら、大介は上着に手を通していた。
「早く、行こう。日が暮れる だろ?」
勝手知ったる他人の家で、直弥のダウンジャケットを探し、手に取る。
「俺、これ好きだ。着てって」
笑顔で突き出された大介チョイスの上着に、直弥は俯き黙って袖を通した。
ともだちにシェアしよう!