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2月11日水曜日
「ダイスケ……」
左手で膝に乗せている箱を撫でながら、大介は直弥を見つめて言った。
「初めてアンタとお揃いのもんだから、マジ超嬉しい。
大事にする。ケータイも、ナオヤさんも」
(あーーー、もう。参る……参った……)
直弥は上気してきた顔の熱さが耐え切れず、右手で顔を覆い、車窓に頬を張り付けた。
どうして大介は、こんな泣きそうになる程幸せな言葉を、思いを、事も無げにくれるんだろう。
(俺だって。でも……)
「ナオヤさん?」
どうかしたのか? と、窓に顔を向けた直弥を大介はのぞき込む。
「あ、あぁ。うん。有り難う」
心中の嬉しさを表しきれるはずもなく、直弥は手を握り返すことしか出来なかった。
「そういえば、拾って貰ったお礼はちゃんとしたのかい?」
「勿論。いてもたってもいらんなくって、早起きして行った。持って来てくれた榮に、帰りに奢って礼しようと思ったんだけどさ……なんでか断られて。『合宿で礼は返して貰う』って言われた。なんだろ? 荷物持ちでもさせられんのかな?」
「え……合宿で?」
「そう、合宿」
「……」
「……」
お互い合宿の話は、日程を告げられた日からあまり会話に出していない。
無言になった途端、列車の音と揺れがやけに体に響く。
「俺14日、本当にショックだった。今も。アンタと過ごせると思って。約束してたのに」
「あぁ、うん。そうだね」
問いかけられ、たくさん伝えたいことはあるのに、馬鹿の一つ覚えの様に同じ言葉しか返せない。
会話は無いけれど、お互い離れ難く、降りるはずの駅を通り過ぎ
それから半時間、黙って寄り添ったまま電車に揺られ続けていた。
ありったけの想いをいつもくれる大介に、俺は、返せているのだろうか。
(……返せてる訳、無い)
すっかり暗くなった車窓に反射する直弥の表情は、我ながら酷い表情をしていて、大介に顔を向けられなかった。
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