100 / 255
2月12日木曜日
14日。
初めて合宿を告げられた時は覚えてない振りをしたけれど、それはただの下らないプライドで。
14日の事を、日が近づくごとに毎日考えている。
直弥は食欲なく昼休み食べに行かず、席で頭を使わないですむ書類整理しながら、渦巻く想いをやり過ごしていた。
* * *
――最近
(ていうかここ半年……田辺さんの様子がおかしい)
昼休み一人で機械の様に書類を仕分けている、直弥の背中を見ながら、電話当番で同じく残っているアイは、小首を傾げる。
(事情は分からないけど、半年前……すごく元気がなくなって。それから……元気だったり、元気なくなったり……今日は元気がない日)
閑散としたオフィス、直弥の背後に近づく。
「田辺さん、」
「?! ワッ!」
よほど作業に没頭していたのか、直弥は声をかけられ驚いた。
「すみません、驚かせちゃって」
アイは笑顔で話しかけた。
「あ、いや、こっちこそゴメン……」
バツ悪さを隠すため、直弥は笑った。
「田辺さん、なんか最近笑い方」
アイは常々思っていた事をとっさに口走ってしまい、思わず口を手で押さえた。
「笑い方? 何だい?」
アイは前から思っていた。会社ではたまにしか聞こえない田辺さんの笑い声だけど
「笑い方っていうか笑い声っていうか……なんか、ヘンですね! アッ、変ていうか……」
(キャッ! フォロー不可!)
次の言葉が見つからず、諦めてアイも笑ってごまかす。
以前はもっと女から見ても大人しげで、上品な笑い方だった気がする。たまに見える直弥の笑顔に、アイの同僚の女子も沸いていた。
「変? 笑い方……笑い声……」
直弥は指摘されるまで、自分では気付きもしなかった。
「あ、」
思い出される大介の笑顔。癖のある笑い声。
大介の癖が、うつってきたのか。
「そ、そうかな?」
勘違いかもしれないけれど、なんだかその思考に辿り着いた自分と、本当だったら……な事実に、無意識に直弥は照れ笑いを浮かべた。
「!」
(田辺さん、変わって言われたのに、笑ってるーー! やっぱり最近、変!)
アイは更に小首を傾げて睫毛しぱたかせ直弥を観察していた。でも元気がない姿よりは、安心する。
――薄々気になっていた。
半年ほど前、ひどく元気がなかった様子。
(田辺さん以前はあんなに遥平と仲が良かったのに)
傍から見ても、二人は疎遠になっている。だけど、喧嘩や絶交やそんな感じでもない。
タイミングがちょうど、アイと遥平が付き合いだしたころと被る。少なからず自分が関わっている気が、女の勘でしていた。
(女の勘だけど、当たってる気がしてならないけどぉ。二人って……)
アイはそんな杞憂を払拭するように、話題を変え直弥に話しかけた。
ともだちにシェアしよう!