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2月13日金曜日
* * *
寒さぶり返し、真冬に逆戻りしたような一日だった。
13日の金曜日、一般的にも今の直弥的にも憂鬱な一日だけれど、外に出て中でもバタバタとしていれば気も紛れた。
日が落ち、ますます気温が下がり室内に居ても、足元から冷えてくる。
ビルのエントランスで、携帯をチェックする。大介から連絡は、入っていなかった。
明日に迫った出発に大忙しなんだろう。
(とりあえず、家に帰ろう)
直弥は身をすくめ、深呼吸した後、外に出た。
「おつかれさん」
寒風がビル風になってさらに吹き上がっている中、大介が立っていた。
「?!」
会社の前で叫び声を上げそうになった直弥は慌てて言葉を飲み、大介の手を引いて筋違いへ連れて走る。
掴んだ手は氷の様だ。
「な、何してるんだよ! 明日朝、早いんだろ?!」
人気が無いのを見計らいながら、大介の頬を触る。やはり、氷の様に冷たい。
「あぁ、明日超早いから……今、会いに来た」
頬に当てられた直弥の手を握り、大介は笑っている。
「流石に今日は直弥さん家で待ってられねーから」
「ここで待つの久しぶりで緊張した」と、大介はまた笑って。
「えっと……」
肩がけの鞄をゴソゴソと漁り、直弥に紙を手渡す。
「これ、今日貰ったから」
合宿のプリントだった。
「あ、あぁ、ありがとう。これを渡しに、わざわざ、こんな寒い中待って?」
「まー、それもだけど……昨日も会えなかったしな。どうしても、行く前に会いたかったから」
「……」
「メールしようかと思ったけど、会社に来るって言ったらナオヤさん怒りそうだと思って。アンタに怒られたら俺、言う事聞かない訳にいかないから、黙ってきた。ゴメン」
大介の言葉を聞いて、直弥は無意識に歩み寄っていた。
「怒ってないか?」
「……怒ってない、ょ」
直弥は最小限の言葉と共に、首を振る。
大介は直弥の言葉を聞いて、白い息とともに「良かった」と呟きを吐きだした。
大介は辺りをうかがい、直弥を身体ごと包み込んだ。
右腕に直弥の背中を抱き締めながら、左腕で顔を隠し直弥の頬にキスをした。
「じゃあ、行って来る。って言っても一泊二日だけどな!」
直弥が一瞬の出来事に言葉を失っている間に、大介は身を離し笑いながら、何度も振り返りながら路地から去って行った。
大介の姿が見えなくなっても、どれだけ風にあおられても
直弥は暫く一歩も動けず立ち尽くした。
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