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2月14日土曜日

「榮、ほら貸せよ」  先生が運転してくれたバンがスキー場に着いた途端、先に降りた大介が榮に手を差し伸べた。 「大ちゃん、何?」 「荷物」  雪山の光を背にして、笑顔で差し出された手に榮は戸惑う。 「荷物、持ってくれるの?」 「え? 拾ってくれた礼って……荷物持ちじゃ、ないのか?」  ハレーションに負けない位の、目映い純粋な笑顔を向けられ、榮は胸が高鳴るとともに、痛みを覚える。 「違うよ。お礼してもらうのは、そんなんじゃ。だから荷物は自分で、持つ」  大介の笑顔とは対極の、後ろ暗い思いと渦巻く感情で、榮は大介を直視出来なかった。  言葉通り、榮は自分の荷物を担いで降りた。 「じゃあ、何すればいいんだ?」   「あの、夜、ちょっとつきあってほしいんだ。話があって。聞いてほしいなって……」 「え? それだけでいいのか?! なんか難しい話か? 俺、頭使う話役にたたねーけど」 「ううん、そんなんじゃ」 「解った。また、声かけてくれな!」  大介は笑顔を残し、銀世界に走り出した。  有賀が大介の後を雪の塊を持って追っかけている。  夏から持ち続けている何かへの嫉妬からか、バレンタインにかち合わせたこの日程を先に決め、有無を言わせず推し進めたのは榮だ。  合宿は14日だと告げた時、大介は酷く落ち込んだ様相だった。  悪かったかなと思う反面、無意識に達成感に浸る自分の感情に気付きびっくりした。  罪悪感を抱えたまま来て、気分は落ちかけたけれど、愉しそうな大介の姿を見て、来て良かったと心から思った。 「あいつら、夜明け前から何時間も車に揺られてすぐ後とは思えない、元気さだな。先にホテル行って用意してからだっていうのに」  運転席から降りてきた先生は、笑いながら榮に問いかけた。 「はい。みんな元気ですね」 「遠野いっつも学校じゃあいつらの面倒見てくれて、合宿来ても見学してるけど……今日は一緒に行ってみるか?」  ウインタースポーツに長けている先生がついてくれている。一人でぼーっと佇むところもなく、確かに去年はホテルで退屈だった。 「じゃあ、ちょっとだけ行ってみます」 (軽い気持ちで言うんじゃなかった……)  思いのほかスパルタ先生の指導の下、スキー初心者榮はねを上げかけていた。  先生こそ、雪山に目を爛々と輝かせ、こんな同好会の顧問をかって出てくれただけのことはあるテンションの高さだ。 「おー榮! 現場きてんじゃん!」  軽い練習クロカンコースから帰ってきた四人は、すごく喜んでくれて。  大介の顔を逐一見た榮は、嬉しそうな顔に疲れは少し癒やされる。 「榮、偉いじゃん」  頭を撫でる代わりに、ニット帽の雪をはたいてくれた。頑張ると認めてくれる。  耐寒マラソンの時、山から下りてきてくれた大介の事が思い出された。 「あ、今、写真撮らね?」  大介が提案した。 「そうだね、いつも現場写真に榮居ないもんな」 「先生、よろしく」  皆がわらわらと集まって、大介は携帯を先生に手渡した。 「あ、出たーー! おっさんケータイ!」 「うっせ! おっさんじゃねーし!」 「ほら、先生が持ってる方が似合ってるじゃん」  榮は初めて写るゲレンデ写真の輪の中に入った。写る前、人知れず大介の隣に移動し、大介の腕にしがみついた。

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