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2月15日日曜日
大介が走り去ったロビーで茫然と、榮はまだ立ち尽くしていた。
「おお、遠野。早いな。集合まだ大丈夫だぞ?」
昨日付き切りで高校生の相手をしたせいか、見回りにも来ず爆睡していたであろう先生が、元気な顔をしてやってきた。
「あ、先生……」
(誰にも会いたくない時に。またこんな時に、先生)
今日は、泣いてなくてよかった。
普通に話せている自分をほめたいくらいだ。
「昨日、よく頑張ったな! 偉かったな。遠野は運動苦手意識あるかもしれないけど、負けず嫌いで頑張り屋さんだからな!」
「……はい」
「やってみてよかったろ!
一日っていうのは、たかが一日でも同じ日はない。
頑張ったらその分、自分に返ってくるんだ。その日は二度と戻らないからな!」
「……はい」
――二学期の始業式が思い出された。
”たったひと夏”
離れていただけで大ちゃんは変わった。
ひと夏で失うものは大きかったと、気付いたはずなのに。
告白を「明日でいいや」と思ってしまった昨日の夜。
二日目も関係は変わらず、ずっと一緒だと思ってた。
(何故僕は同じ過ちを…… 一日 を大事に出来なかったんだろう)
先生が言う通り、同じ日は、ない。頑張らないと得る事は出来ない。
なりふり構わずがんばった人には、得るものが。
(たった一日、だけど大きすぎた)
「言えば、何か変わったんだろうか……」
榮は呟いた後、腕で覆った顔を上げられなかった。
「お、おい、遠野、どうした!? 先生なんかまた変な事言ったか? 昨日しごきすぎたか?」
始業式後の事を先生も思い出したのか、二回も泣かせて驚きオロオロと困っている目の前の担任に、取り繕う事も出来なくて。
「筋肉痛です」と身体が痛いふりをして泣いた。
堪えていた物が、溢れて止まらない。
だけど、二度も同じ最悪な場面に出てきて、空気を読めない先生の存在が滑稽で。少し笑えて救われた。
-自由研究 冬 おしまい-
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