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2月19日木曜日

「ナオヤさん! 久しぶり! 仕事忙しそうだから、来るの我慢しようと思ったけど。明日……十のつく日で、休み前だろ! 明日は絶対会えないと思ったからさー」  近づく足音はやまない。だけど、直弥は起き上がれない。 「ナオヤさ、ん……? 何だ?! 倒れてる?! 大丈夫か?! どしたんだ?!」  頭上から声が降り注いでくる。  思った通り、矢継ぎ早に心配した問いかけが止まらない。 「ダイスケ、いや。ちょっと風邪引いただけ」  傍らでしゃがみ込んだ大介に、観念して答えた。 「風邪? やっぱり先週……」  「ぃ、いや、違う! 具合、今日、今日、今日、今日! から」 「あ、あぁ、そうなんだ」  直弥が掠れた声でそれだけは全力否定したら、大介は気押され浅く頷いた。  「なんで、こんな所にこんな格好で?」  直弥は大介が来た後半身を起こそうと何度か試み、熱のせいか脱力と怠さで起き上がれないでいた。  「……大丈夫、寝てるだけ。床、冷たいから気持ち良くて……」  顔だけ大介に向け、辛うじて微笑む。 「気持ちいいとこから寝転がってうごかねーって……うちの左文次じゃないんだから」  名前を久しぶりに聞き、大介の言う所の飼い猫の姿を思い出す間もなく、直弥は大介に抱きかかえ上げられた。  直弥は冷たい床から、ベッドに寝かしつけられた。  ゆっくりと開いた目の前には、覗き込んでいる大介の顔が。    風邪を引いたのは最悪だったけれど、不幸中の幸い一つだけ良い事があった。 14日から顔を合わせるのが気恥ずかしかったが、再会は風邪のせいでそんな感情どころではなくなった。  見るのが心苦しいと思っていた心配顔の大介の姿も、視界がぼやけはっきり見えない。  直弥は再び目を閉じる。 「ナオヤさん、大丈夫か?」 「あぁ、だ、大丈夫」  直弥は息苦しさに、ネクタイを引き抜こうとした握力のない手を大介に握られた。 「ナオヤさん、着替えるか?」 (あ、ネクタイどころかスーツのままだった) 「うん、着替えたい……」 「着替えさせて、良い、か?」  

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