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2月20日金曜日
* * *
「遥平?!」
大介の口から出た名前に驚き、直弥の掠れた声が裏返った。
「電話、かかってきて……『大丈夫か』って……」
「電話?? 遥平から?!」
直弥自身も驚いた。
(連絡なしに出社してなかったからか……)
大介には昨日から具合が悪いと告げたが、実際月曜から皆に体調不良見せびらかして生活してしまっていた。
視界の端でチェックしていたんだろう。
この半年、直弥は一度も会社を休んでない。だから余計気になって電話をかけてきたのかもしれない。
にしても、別れてから今まで、一度も電話はかかってきてない。
(だって……)
「ダイスケ、」
頬を撫でていた指の代わりに、項垂れている顔に携帯をあてる。
「……え?」
「俺の携帯、見て」
大介は手渡された携帯をあけた。
「メモリ、ヤ行見て。やじまようへい 無いだろ?」
大介が繰っても出てこなかった。
「今日の履歴見て。それ、会社の電話番号。あいつ会社からかけてきてる。あいつの携帯から、俺にはかかってはこない。
俺、……あいつの携帯、着拒否してるから。
会社からでもかけてきたの、別れて初めてだ……業務上あんまり関わりないから支障ないし。
今日休みの連絡を入れてなかったから、きまぐれにかけてきたんだろう。俺、嘘はついてない。信じてくれるかい?」
暫くだまりこくっていた大介が絞り出すような声で呟いた。
「あーーー俺……ナオヤさん。ごめん……」
直弥が再び手を伸ばして触れたら、その頬は濡れていた。
「俺、俺……ナオヤさん、具合悪いのに……しんどいのに自分の嫉妬で責めて勘違いの……アンタの事、信じてるのに……
電話、出てアイツと話したら……あーー」
握りしめた拳に涙の滴が、ポタポタと落ちている。
電話に出てしまい嫉妬に押しつぶされそうで、さぞ辛かっただろう。
そんな大介の姿を見ていたら、熱で浮かされ弛んでいる涙腺が熱くなって。直弥も涙がこみ上げてきた。
(なんだ、これ)
「ダイスケ……泣かないでくれ」
大介の頭を胸に引き寄せ、抱き締める。
「ごめんな、俺……」
「謝らなくて、いい」
直弥は布団をめくり、ポンポンと叩き大介に合図する。
「おいで」
大介は腫らした目をあけ、驚いている。
「一緒に、寝よう」
(人間寝たらヤなことわすれられる、大概。二人でなら、もっと)
大介は黙って、直弥の横に潜り込んだ。ベッドが沈む。
狭い中、大介は直弥にしがみつくように抱きついた。
先週ホテルでは、行為後大介は部屋に帰ったから、二人でこんな風に眠るのは初めてだ。
まだ日は高いのに。
風邪引いているのに。
大介は制服のままなのに。
心地よさに、何もかも忘れた。
何もせず、抱き締めあったまま眠った。
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