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2月23日月曜日

 *  *  *    外出する前、会社でもう一人の難敵、ラスボスである部長に挨拶しに直弥は重い足を向けた。  突然休んだことを謝らなければ。ドヤされる覚悟で頭を下げる。 「?」  部長の機嫌がやたらいい。  休んだ事を怒られるどころか、逆に直弥を褒めだした。  訳が分からないが、部長の視線は直弥の胸ポケットに注がれていることに気付く。  昨日、携帯に付けたストラップがポケットから出ていた。  会社のノベルティのストラップ。  君は愛社精神があるだのなんだの言われ、意味が解らず普段との違いに気味が悪かったが、休んだ事を咎められずに、笑顔で送り出されてホッとした。 「……あ、そうか!」   直弥は、暫くしてから訳が分かった。  このストラップ、確か部長が決めて、乗り気でデザインも選び発注していた。  社外で配っているが、社内ではこの 頗るダサい ストラップ。  陰で笑われ、誰も付ける人なんて居やしなかった。  直弥も、勿論同意で、存在さえ忘れていた。  昨日までは。 ――日曜  今回の発端である【携帯入れ替わり問題】を、直弥は真面目に悩んだ。 (あ、そうだ、目印を付けよう)  思いつきはしたが、今まで興味のかけらもなかったストラップなんて持ってなくて。そんな時、ふと思い出した。捨て忘れどっかに転がっているあろう、会社のストラップ。  大介の携帯と見分けがつけばそれでいいやと探して付けた。 「大介に早く伝えたいな」  直弥は堪えきれず、車の中で一人声を出して笑った。  大介は落ち込んでいたけれど……  お前が携帯間違えてくれたおかげで、部長に褒められたよ、と早く安心させたい。喜ばせたい。   ただ、大介が喜ぶ顔が見たい。  

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