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3月9日月曜日

 午前中からやまない雨のせいで、ランニングメニューだった大介の部活が無くなった。  時間を持て余し、合い鍵に付けているカラビナを指でぐるぐる回しながら直弥の家に向かっていた大介は、踵を返し方向転換した。    *  *  *    ビニール傘を適当に肩にひっかけ、制服が汚れるのも気にせず、壁伝いに歩を進めている。  角を曲がれば、昔通い詰めた直弥の会社のビルに辿り着いていた。 (べ、別に、ストーカーじゃねえし!)  大介が胸の中で言い訳を目いっぱい叫ぶ。  付き合い始めて直弥に「来るな」と言われてから足を運ぶのを我慢していた。   直弥の言いつけは大介にとって絶対で、これまで何度も思い立ちは、我慢した。  来ると怒られるだろうから内緒で来た、合宿前日あの日以来。ここに訪れたのは本当に久しぶりだった。  今、ここに辿り着くまでも何度か思い出した。そして今も思い出される。  去年の一夏、そして記憶に新しいこの間の直弥の姿。   「クッソ可愛かったな……」 自然と緩む大きな口を、大介は手で押さえた。   大介を見つけた時に、向けられる驚いた顔。  普段は楚々としてる直弥の顔に色が入る。  あの表情を拝めた瞬間、待ってた時間の事も、暑さ寒さもすべて吹っ飛んだ。  あの姿が見られるのなら、怒られても良いかなとも思う。けれど、”直弥の嫌がる事は一ミリでもしない” 大介が自分に決めた掟を破る訳にはいかない。  角を曲がるぎりぎりで、大介は会社の様子をうかがう。会えても会えなくても良い。  一目見られればラッキーだけど。 「ムリかもな」   携帯をポケットから取り出し時計を確認する。まだ終業時間には全然早い。  時間動きのないオフィスを、そぼ降る雨の中、大介は見上げた。 「よぉ、少年」  背後から声がした。

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