145 / 255

3月10日火曜日

 雨の代わりに雪が容赦なく舞い落ちる空を、遥平は残業前に眺めている。  昨日と同じ場所で。 ――昨日  雨の中、煙草を買いに出た帰り道、街角で佇むガキの背中を見つけ驚いた。  先日、行きがかり上電話では、サシで初めて話す羽目になった。  だけど面と向かって二人きり出会うのは、初めてだった。最初で最後かもしれないが。  別に話すことはこれと言ってないが、興味ないと言えば嘘になる。……声をかけた。  まあ、終始居心地悪そうで嫌そうな表情を浮かべ、表情は沈んでいた。目も全く合わそうともしなかった。  予想通り会話は全く弾まないが、こっちが言う言葉に対して、思った事が顔や態度に如実に出る解りやすい奴だ。 目に入ったお揃いの携帯を弄ったら、バツが悪いのかすぐに隠した。  冗談で、直弥に甘やかされ可愛がってもらってるのか、と問いかけたら、耳まで真っ赤になって顔を伏せた。  高校生と大人が、中学生みたいな恋愛してやがる。  すぐ隠された直弥とお揃いの携帯の代わりに…… 俺も出してやった。  まだ吸い終わってないけれど、見せる為にわざわざ新しい煙草を取り出す。  顔を伏せた視線の視界に入るだろう。  煙草のパッケージ。  その携帯よりずっと前から、年季が入った直弥とお揃いの物。  そりゃあ一緒だ。  煙草は直弥に自分が教えた。社会人になるまで手に持った事もなかった直弥に。   流石、直弥にぞっこんなだけの事はある。 ガキは見てすぐ気付いたようで、睨みつけて来た。  少し楽しくなって、見せびらかした。  遥平は昨日と同じ場所で、煙草のパッケージを愉快そうに見つめた。   ――「良く見つけたな、直弥を」 ガキに問いかけた。  意味が解るか解らないかは、賭けだ。  暫く真面目に考えていた後、ガキの答えは……正解、だった。  遥平は、掌の煙草のパッケージを少し握りつぶした。  

ともだちにシェアしよう!