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3月10日火曜日
雨の代わりに雪が容赦なく舞い落ちる空を、遥平は残業前に眺めている。
昨日と同じ場所で。
――昨日
雨の中、煙草を買いに出た帰り道、街角で佇むガキの背中を見つけ驚いた。
先日、行きがかり上電話では、サシで初めて話す羽目になった。
だけど面と向かって二人きり出会うのは、初めてだった。最初で最後かもしれないが。
別に話すことはこれと言ってないが、興味ないと言えば嘘になる。……声をかけた。
まあ、終始居心地悪そうで嫌そうな表情を浮かべ、表情は沈んでいた。目も全く合わそうともしなかった。
予想通り会話は全く弾まないが、こっちが言う言葉に対して、思った事が顔や態度に如実に出る解りやすい奴だ。
目に入ったお揃いの携帯を弄ったら、バツが悪いのかすぐに隠した。
冗談で、直弥に甘やかされ可愛がってもらってるのか、と問いかけたら、耳まで真っ赤になって顔を伏せた。
高校生と大人が、中学生みたいな恋愛してやがる。
すぐ隠された直弥とお揃いの携帯の代わりに……
俺も出してやった。
まだ吸い終わってないけれど、見せる為にわざわざ新しい煙草を取り出す。
顔を伏せた視線の視界に入るだろう。
煙草のパッケージ。
その携帯よりずっと前から、年季が入った直弥とお揃いの物。
そりゃあ一緒だ。
煙草は直弥に自分が教えた。社会人になるまで手に持った事もなかった直弥に。
流石、直弥にぞっこんなだけの事はある。
ガキは見てすぐ気付いたようで、睨みつけて来た。
少し楽しくなって、見せびらかした。
遥平は昨日と同じ場所で、煙草のパッケージを愉快そうに見つめた。
――「良く見つけたな、直弥を」
ガキに問いかけた。
意味が解るか解らないかは、賭けだ。
暫く真面目に考えていた後、ガキの答えは……正解、だった。
遥平は、掌の煙草のパッケージを少し握りつぶした。
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