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3月10日火曜日
* * *
内定式、新入社員の初顔合わせの日。
遥平は直弥の姿を見た途端、直感した。
「見付けた」
大人しげで、地味な印象。不安そうな面持ち。スーツに着られてる感のあるあどけなさ。
自ら存在感をかき消そうとしている雰囲気も手伝って、印象の薄い、人の目に留まらない存在。
でも、遥平の目には、はっきりと見えた。
――稀有な本質。
誰より先に、声をかけた。
元来バイで、付き合う分には自分が気に入れば、性別どちらでも良かった遥平の性癖が功を奏した。
見付けた相手の性癖は対象が同性で、瞬く間に手繰り寄せられた。
直弥の本質に
誰も気付いていない。
気付かなくていい。
本人さえも。気付かないでいい。気付かせない。
「俺だけが気付いてればいい。気付くな」
付き合っている間のスローガンだったかもしれない。
目ざとい女子社員が、直弥の笑顔が可愛いとかなんとか騒ぎ出したと耳にした。
速攻、理由は言わず『会社で必要以上に笑うな』と告げた。
可愛いと思っても、自分だけが見られる綺麗な顔を見ても、決して褒めはしなかった。
自信がないままで、良い。
自惚れかもしれないが、直弥は自分に夢中で従順だった。
ぞんざいな扱いをしても離れはしない、という自信があった。
逆に、そんな扱いをしている間、自分の事で頭が一杯なんだろうと思うと妙に安心した。
親に彼女や結婚の話をせっつかれるようになって、状況的にはこうなった。
関係は変わったけれど、直弥の自分への気持ちは変わらないと思っていた。
傷ついた様相を見ると、自分のせいで傷ついていると思うと安心した。
そう思うと、それだけで今までと何も変わらないのでは……という気持ちになった。何故だか。
上手くいけば、一生直弥とも関係が続けられる気も、どこかでしていた。
俺なしでは居られないだろう……と自負があった。
ガキが、現れるまでは。
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