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3月14日土曜日

「ナオヤさん、お返し何欲しい?」 「べ、別に、何も要らないよ」  3月14日、世間はホワイトデー。  朝から家に転がり込んできて、大介は開口一番直弥に問いかけた。  直弥は気まずさに、今日の今日までわざと話を出さなかったのに。 「お返しも何も……俺、ダイスケに何もあげてないし」  2月14日。さんざん14日という日付に対して紆余曲折あったのに、大きな障害があったテーマのせいで、プレゼントの一つも思い浮かんではなかった。  ただ、自分の感情で押し掛けた。  行きに寄ったコンビニでだって何でもいいから、何故大介にチョコの一つでも買わなかったんだろう。  気が回らないにも程がある。  一人帰宅してから自己嫌悪に陥った。  しかも下着だけは買っていった自分の浅ましさが、異様に恥ずかしく感じる。  直弥の会社はありがたいことに社交辞令行事禁止だから、貰うことなんてないけれど  それでも最近会社の女子が、色めき立っている会話を耳にし、一ヶ月後にもう一度訪れるイベントに、はたと気付いた。  平日だったら何もなかった事にして、会わずにシラを切り通す事だってできたのに、暦のイタズラで先月と同じ土曜に14日はやってきた。  それでも大介が話を出さなければ、直弥からは勿論一言も話を出す気はなかった。  けれど、良心の塊大介は家に来るなり、そんな直弥の気まずい心中知らず、【お返し】と告げてきた。

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