157 / 255

3月20日金曜日

「成績優秀、品行方正……」  生徒情報と内申を見ながら、杉崎はため息をついた。 「先生、1年の時の担任ですよね?」 「誰のですが?」 「遠野です」  職員室、隣の席の先生に話しかける。 「はい、そうですけど、遠野がどうかしましたか?」 「1年の時は、どんな生徒だったのかなと」 「どんなも何も、1年も二年もあの子は変わってないと思いますよ。今は教科の授業だけの印象ですが。品方向性、成績優秀……」 「ですよね」 「杉崎先生の方が、お詳しいんじゃないですか? 彼のことは。今担任で、確か部活も顧問されてるんですよね?」 「そうです。そして私も、遠野に関してはその通りだと思います」 「で、その遠野がなにか?」 「いえ……」  杉崎は口をつぐんだ。 「皆、遠野みたいな子だったらやりやすいんですけどね。思いませんか? ねえ、杉崎先生。 この間来ていた教育実習生でも、生徒扱いに困りませんよ」  ドキッ!  グサッ!  杉崎は、同僚先生の言葉にイヤに傷つき、返事が返せず、ノートパソコンを閉じた。 (教育実習生でも困らない……)  頭の中で反芻すると、また落ち込む。  教師になって八年、そんな非の打ち所のない生徒を…… (二度も泣かしてしまった)  杉崎にとって、今どの生徒より扱いがわからない遠野だ。  何が失言だったのか、どこに泣かせるスイッチがあったのか。  いくら振り返ってみても、思い当たらないし見当がつかない。 「あ、」  チャイムとともに、杉崎は二年最後のHRへむかった。

ともだちにシェアしよう!