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3月20日金曜日
「成績優秀、品行方正……」
生徒情報と内申を見ながら、杉崎はため息をついた。
「先生、1年の時の担任ですよね?」
「誰のですが?」
「遠野です」
職員室、隣の席の先生に話しかける。
「はい、そうですけど、遠野がどうかしましたか?」
「1年の時は、どんな生徒だったのかなと」
「どんなも何も、1年も二年もあの子は変わってないと思いますよ。今は教科の授業だけの印象ですが。品方向性、成績優秀……」
「ですよね」
「杉崎先生の方が、お詳しいんじゃないですか? 彼のことは。今担任で、確か部活も顧問されてるんですよね?」
「そうです。そして私も、遠野に関してはその通りだと思います」
「で、その遠野がなにか?」
「いえ……」
杉崎は口をつぐんだ。
「皆、遠野みたいな子だったらやりやすいんですけどね。思いませんか? ねえ、杉崎先生。
この間来ていた教育実習生でも、生徒扱いに困りませんよ」
ドキッ!
グサッ!
杉崎は、同僚先生の言葉にイヤに傷つき、返事が返せず、ノートパソコンを閉じた。
(教育実習生でも困らない……)
頭の中で反芻すると、また落ち込む。
教師になって八年、そんな非の打ち所のない生徒を……
(二度も泣かしてしまった)
杉崎にとって、今どの生徒より扱いがわからない遠野だ。
何が失言だったのか、どこに泣かせるスイッチがあったのか。
いくら振り返ってみても、思い当たらないし見当がつかない。
「あ、」
チャイムとともに、杉崎は二年最後のHRへむかった。
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