158 / 255
3月20日金曜日
* * *
高校二年最後の日。
HRの時間、榮は大介の背中を見ながらため息をついた。
短い人生の中で、一番長く感じた一年間だった。
色々な事が怒濤の様に襲い、正直感情が処理し切れていない。
ホームステイでなれない外国で過ごし、帰ってきたら一夏で大ちゃんは、榮の知っている大ちゃんでは無くなっていた。
決定的に奈落の底につき落とされたのは、一ヶ月前の事。
一緒に居ると楽しい。だけど、苦しい。
毎日これの繰り返し。
春休み、部活があるとはいえ、クラスが今日で終わりという事実が、とてもうれしく感じている自分に驚いた。
今日は部活も休み。HRが終わると、どうせダッシュで教室から出ていくんだろう。
今までなら、色々知恵を尽くして大介を繋ぎ止め、とどめる事に必死だったけど。
けれどはっきり、相手の存在を告げられてから、そんなことも出来なくなった。する気もそがれた。
終業式。
成績表だの、今年の総括だの、HRは粛々と進み
榮は斜め後ろから、ただただ大介の背中を眺めていた。
チャイムが鳴り案の定、大介は榮に片手を挙げ最小限の会釈を送った後、教室から消えた。
もうそこにはいない大介の机を、榮は感情を無にして、ただ見つめていた。
「遠野!」
「?」
至近距離からすごい大声が飛んできて、榮は驚いた。
視線をくれると、目の前に また 担任が立っていた。2年最後の担任の姿。
(いつから居たんだろう)
周りを見ても、春休み突入に浮かれ、皆一目散に帰宅している。
バツの悪い相手に、榮は顔を密かにしかめた。
スキー場で号泣を見られてから、涙の理由を誤魔化したとはいえ、やはり気まずさは拭えない。
「遠野……先生、聞きたい事が一つあるんだけど、いいかな?」
「はい」
(え? なに……)
真面目を絵に描いた様な担任の、実直な態度に榮は引きながらも、無碍にも出来ず言葉の続きを待った。
ともだちにシェアしよう!