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3月20日金曜日

  *  *  *  高校二年最後の日。  HRの時間、榮は大介の背中を見ながらため息をついた。  短い人生の中で、一番長く感じた一年間だった。  色々な事が怒濤の様に襲い、正直感情が処理し切れていない。  ホームステイでなれない外国で過ごし、帰ってきたら一夏で大ちゃんは、榮の知っている大ちゃんでは無くなっていた。  決定的に奈落の底につき落とされたのは、一ヶ月前の事。  一緒に居ると楽しい。だけど、苦しい。  毎日これの繰り返し。  春休み、部活があるとはいえ、クラスが今日で終わりという事実が、とてもうれしく感じている自分に驚いた。  今日は部活も休み。HRが終わると、どうせダッシュで教室から出ていくんだろう。  今までなら、色々知恵を尽くして大介を繋ぎ止め、とどめる事に必死だったけど。  けれどはっきり、相手の存在を告げられてから、そんなことも出来なくなった。する気もそがれた。  終業式。  成績表だの、今年の総括だの、HRは粛々と進み 榮は斜め後ろから、ただただ大介の背中を眺めていた。  チャイムが鳴り案の定、大介は榮に片手を挙げ最小限の会釈を送った後、教室から消えた。  もうそこにはいない大介の机を、榮は感情を無にして、ただ見つめていた。 「遠野!」 「?」  至近距離からすごい大声が飛んできて、榮は驚いた。  視線をくれると、目の前に また 担任が立っていた。2年最後の担任の姿。 (いつから居たんだろう)  周りを見ても、春休み突入に浮かれ、皆一目散に帰宅している。  バツの悪い相手に、榮は顔を密かにしかめた。  スキー場で号泣を見られてから、涙の理由を誤魔化したとはいえ、やはり気まずさは拭えない。 「遠野……先生、聞きたい事が一つあるんだけど、いいかな?」 「はい」 (え? なに……)  真面目を絵に描いた様な担任の、実直な態度に榮は引きながらも、無碍にも出来ず言葉の続きを待った。

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