171 / 255

4月28日火曜日

「ナオヤさん。俺、生の玉ねぎ苦手なんだ」 「そうなんだ。はい、身体に良いから食べなよ」 「苦手な物言えって言ったじゃねーか」  「大介が苦手なのは判った。はい」  大きな口を尖らせ拗ねている大介の皿に、直弥は笑いを堪えながら玉ねぎを避けず、出来合いのサラダを取り分ける。  「そういえば、ダイスケ、お兄さん居るって……」  今までの会話に全く出てこなかった。  何度か大介の自宅にも伺ったが、兄弟姉妹の存在を感じなかった。 自分達の事で精一杯で、深く聞く事も無く。 「あぁ、そう。兄ちゃん……あ、兄貴の話な」  サラダそっちのけでフライドチキンをぱくついていた大介が顔を上げた。 「お兄さん、いくつ?」 「えっと、一回り上だから……今年、30!」  「……そうなんだ」  直弥は無意識に表情を緩めた。 「あーー、ナオヤさん今ちょっとホッとしたろ! 兄貴が年下じゃなくてよかったーって所?」  サラダのお返しとばかりに、大介は片眉を上げニヤニヤと直弥の様子を逐一観察していた。 「そ、そんなんじゃ……」  今度は直弥が口を尖らせる。 「俺が小学校の時に家出てるからたまにしか会わねーし、大人と子供だから喧嘩もしたこと無い」 「なるほど、な」  今までの会話にも、兄弟の匂いがしない訳が何となく分かった。  「あ、これ、学校の奴らには内緒だけど、二年の時の担任と兄貴は友達なんだ」 「え? 去年の担任って、同好会の顧問してくれてた先生かい?」 「そーそー。担任が知り合いって皆に知られたら贔屓されるとか噂されてもややこしいからだまっとけって。だから仲良い奴らでも、誰にも言ってねー。 勿論贔屓とかねーけど、そのおかげで、同好会で世話見てくれたりしてくれてる」 「へえ。そうなんだ。よかったね」 「そういやかあちゃんから聞いたけど、兄貴もうすぐ結婚するって」 「え?」  他人の話とは言え、”結婚”という現実的なワードを聞いて、直弥は少しぎょっとした。  「結婚……」 「だってさ」 「あ!」  大介は楽しそうに笑いだした。 「俺、初めてだ」 「? 何が」 「兄貴、年上過ぎて今までぜ――ーんぶ 何するのも兄貴が先で勝ったもんなかったけど。 結婚式でケーキ切るやつ、あれ俺が先にやった!   生まれて初めて兄貴より先にやったもん出来た!」    大介はボロボロのケーキがのった皿を、得意げに掲げて笑いだした。   -明日へ続く-

ともだちにシェアしよう!