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4月28日火曜日
頭の芯までボーッとし始めた時、直弥の唇に付いたクリームを舐められ、チュッと音を立てて大介が離れた。
「ナオヤさん、俺、美味かったから」
「……」
「ちゃんと美味いよ」
「……」
「甘いもん、美味かった」
「……あ、あぁ……うん」
何度も問いかけられたけれど
直弥は頭の中だけではなく、唇も麻痺していて、暫く言葉が発せられない。
上手く答えられない代わりに、大介の指を握ったけれど、握力も無く。
どうやら体中が痺れている事に漸く気付いた。
思い通りに動かなくなってしまう、心と身体。
自分の途方もない思いにも、直弥は改めて気付いた。
「……今日お祝い、ありがとう、ダイスケ。本当に嬉しい」
「ん……」
やっと紡いだ直弥の言葉を聞いて、今度は大介が顔を真っ赤にして黙り込んだ。
「苦手だった甘いもの……食べてくれて美味しいって言ってくれて嬉しいよ。
だけどこれから、大介の苦手な物とか嫌いな物を教えてくれよ。言ってくれないと、判らないよ」
「うん」
直弥は、緩く握っていた大介の指に指を絡める。
「まだ、知らない事ばっかりだ」
(言っても、まだ一杯あるんだろな。俺が知らない大介の事。大介も俺の事……もし何か俺の事知られて嫌われたら……)
直弥は徐々に憂鬱な感情に包まれ俯いた。
「そっか! そういわれれば、そうだな!」
直弥とは対照に、大介は照れて俯いていた顔を上げ、笑顔を見せた。
「俺も、ナオヤさんの事まだ知らない事一杯あるのか! これから一杯知ってけるて事か! すげ――楽しみ!!な、!!」
大介は好奇心に満ちた瞳を輝かせ、直弥に絡められた指にキスをした。
直弥は口を開けたまま、大介の様子を見つめた。
鬱々とした心の霧は薄らぎ、次第につられて笑顔になる。
(正反対の君に、また心救われた)
直弥も大介の指にキスをする。
繋がれた掌越しにお互いキスをして、初めての誕生日会が終わった。
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