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4月28日火曜日
しょんぼりと竦んだ直弥の肩を、大介は思いきり叩いた。
パシッ! と部屋に乾いた音を残し、大介はキッチンに走ってゆく。
「前、親戚のに出て見たんだ」
大きな口を開けてニコニコと浮かべた笑顔に、似つかわしくない物が手に握られていた。鋭利な果物ナイフ。
キッチンから戻ってきた大介は、向かい合っていた元の場所に戻らず、直弥の隣に座り込んだ。
「ほら、持てよ。直弥さん」
「あ、あぁ。切ればいいのかい?」
直弥は大介から果物ナイフを取り上げようとしたけれど、握られたナイフはびくともしない。
「?」
大介はナイフを直弥にゆっくり握らせ、その手を両掌で覆った。
「こんなん、やってた」
直弥が驚く暇も無い間に腕を誘導される。ケーキの上に。
二人で握ったナイフでケーキを切った。
直弥は視線が定まらず手が微かに震え、大介に操られながらで上手く切れなかった。
こんな ごっこ が、心に果てしない高揚感をもたらす。
大介の真意は直弥には皆目わからないけれど
何度か盗み見た大介の横顔が、楽しそうに笑ってくれているのが心の支えになった。
「ナオヤさん、食べさせてくれよ」
もはや原形をとどめていないケーキを見て、大介は口を開けた。
直弥はフォークで見当つけず掬い、戸惑いながら大介の口元へ持っていきかけたところで、大介の大きな口が先に迎えに来た。
ケーキが口に入った途端大介は少し顔をしかめ、笑顔から真顔になったけれど
「ナオヤさんも……一緒に、食って」
大介は直弥を引き寄せた。頬を持たれた手によって、直弥は口を開けられる。
大介の舌と共にケーキを口移しされた。
直弥の口内で、お互いの舌とケーキが絡み合って……大介の言葉通り 一緒に食べた。
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