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4月29日火曜日
朝、直弥が目覚めると、大介の右腕で首をホールドされていた。
ぐっすり寝ている大介を起こすのは可哀想で、少しずつ身体をずらし、気付かれないようこっそり抜け出す。
よろけた足取りでキッチンに辿り着き冷蔵庫を開けると、原形をとどめていないケーキがそこに有った。
ケーキを見て思い出した。
大介が口に含んだ瞬間の少ししかめた真顔。
言われてから様子をみると、すぐに気付けた。
「苦手、だったんだな」
苦手だったのに、食べてくれてた。買ってきてくれた。
「あ……」
直弥の脳内が高速で逆行する。
(忘れてた!)
直弥は自分に驚き、額に手を当てた。
今までずっとずっと縛られていた記憶が、目の前の大介が全てで、忘れて出て来やしなかった。
”全部、忘れて。俺の事以外。”
――クリスマスの日
路地裏で大介に呪文の様に、何度も何度も告げられた。
呪文が効いたのか。その通りに、なった。
直弥は冷蔵庫を閉め、重い足取りを急がせ大介の元へ戻る。
大介はまだよく寝ていた。子供の様な顔で。直弥は自然と笑みがこぼれた。
起こしたくはない。けれど、顔を見て伝えたかった。
「……ダイスケのお陰で、俺、忘れられたよ」
直弥は聞こえない程の声で囁き、大介に触れるだけのキスをした。
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