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6月3日水曜日
「きっちりこの日に退部って決めずに、仮にすれば? もし進路がみんな決まってまだ雪あったら、卒業まで活動するとか」
淡々とした声が聞こえた。
(遠野……)
杉崎は、榮を視界の端で捉える。
「それいい!!」
四人は明るい声を上げた。
「流石榮、やっぱ頭いいなあーー!」
「ゃ、やめてよ……」
大介が榮を捕まえて頭グリグリしている。遠野は迷惑そうにその手から逃れようとしている。
杉崎は、その様子を顔にあてたバインダーの隙間から覗く。
「そうだな。前例ないついでにそれでいいんじゃないか? 今は自主練という事で。先生、承知した」
「先生!! ありがとう!」
「あぁ、そのかわり……皆、進路ちゃんと決めて、それに向けて頑張れよ」
体は大きいのに、少年のような笑顔につられて杉崎も笑った。
「あー、ホッとしたーー! 同好会のこと安心したら、さっきの写真気になってきた。俺、ちゃんと格好良く撮ってくれてんのかな?」
大介が大きな口を開けて、皆に問いかける。
「岩っち無理いいい! 元がその顔じゃあな!」
「あー? 何だと!」
バカにされ、狭い部室を追いかけ走り回っている。
大介の長い腕から逃れた榮が、距離を保ちながら四人のその様子をじっと見ている。
顧問として参加している間、ニ年以上見てきた風景。
変わらない……当たり前の様子。
杉崎は、その様子をひたすら眺めた。
「あ、そうだ。持ってきてくれたか?」
「はーい」
部員の様子を見つめていた杉崎は、言い忘れたことを思い出し、我に返った。
カメラマンがさっき撮ってくれた集合写真と、皆に呼びかけていた今までの活動の写真。
画像をアルバム用にレイアウトして作成する。
杉崎にとっても顧問として愛着のある同好会だから、楽しい作業に労力は厭わない。
皆ちゃんと持ってきてくれていた。
写真になっている物は現物を借り、携帯に入っている画像は送信して貰った。
「出た! 岩っちのおっさん携帯!」
「うっせ! おっさんじゃねーし!」
新喜劇かと思うほどの毎回行われる同じくだりのやりとり。
大介が黒い二つ折りの携帯を出すとバカにされている。
「一つ歳取ったって、ぜんっっぜんおっさんじゃねーし! ちょー可愛いし!!」
「は? 言ってる事ぜんぜん意味わかんねーいわっちのバーカ!」
「っせ!!」
大介が謎の言葉で応酬している。
時々……いや、今までもよく勢いで自分自身訳の分かってなさそうな事を良く叫んでたな。
(うんうん。これもいつもの風景だ)
大介の兄にはこの弟の……おバカな様子は黙っておいてやろう。杉崎は心にとどめた。
最後に大介のおっさん携帯と揶揄されている黒いガラケーから、データを貰った。
「せんせい、そしたらよろしくな」
「あぁ、お前等も早く帰れよ」
一応顧問としての用事は終わったので、まだ全然遊び足りなさそうな子達を残し、杉崎は部室を去った。
元気な挨拶を背にしながら、杉崎は少し振り返り、ノートパソコンが入ったケースを掲げた隙間から、様子を盗み見て部室を後にした。
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