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7月31日金曜日

「ナオヤさん、回ってる? 大丈夫?」 「なにが? どこが?」 自分が思っているより、大きな声が出て直弥は咄嗟に口を塞いだ。声のボリュームが効かない。  認めたくはないけれど、酔っぱらってる証拠だ。  店を出て、夜道を二人歩いている。  結構深い時間だというのに蒸せ返る様な外気で、歩いていても熱気が体にまとわりつく。  身体を冷やしてくれる夜風が今日はなく、酔いはまだ醒めそうにない。  大介は直弥の様子を逐一気にしながらも、少し前を歩いている。  直弥は今出せるMAXの速度で歩を進めているが、知らぬ間に蛇行しているのか、追いつかないので肩を並べて歩けず、大介の骨ばった広い背中を目標に歩く。  直弥の事を気にしながらも率先して道を進んでゆく大介は、何も言わないけれど何処かへ先導してくれている様で。  大介について歩く事だけにかまけている直弥が、ふと周りを見回すと、人通りもまばらな深夜も相まって、全く見当つかない場所だった。 「ダイスケ……何処いくんだい?  こんな夜中にまさか二軒目とかじゃ? 俺、悪いけどもう飲めない……」 「ん? 店? 違う違う。もうちょっと」  気にして振り返ってくれた大介の声色は、いつも通り優しい。  けれど、表情は店で見せてくれた全ての不安も消し去ってくれるいつもの笑顔はなく、至極真面目な面もち。  直弥の酔いが少し、醒めた。 「ここ」 「……ここ?」  程なくして大介が立ち止まり、漸く辿り着いた場所は 360度見渡し、直弥のうっすらとした記憶の引き出しから何とか出てきてくれた。 (確か、クリスマスに迷い込んだ路地だ……) 「ダイスケ、思い出した。クリスマスに歩いた道だろ。ここがどうかしたのかい?」  繁華街から少しずれた路地。  あの時、本当は自分が大介を店につれていかなければいけなかったのに、忘年会の嫌な思い出を脳内で反芻して、ぼんやりいる内に迷い込んだ道だった。  あの時も大介の背中が目の前にある。  視界の先には、大介に引っ張り込まれたビル裏。  あの日は寒くて、季節は正反対になったけれど、景色は変わりなかったので、直弥の酔った頭でも思い出された。 「クリスマス?」  直弥は正解に自信があったのに、大介は首を傾げている。 「あ、あぁ。そうか。それも正解」  一瞬不安に駆られた直弥は大介のリアクションにホッとした。 (それ、も?)  けれど一言がひっかかる。 「絶対、覚えてる筈ないアンタが知ってる風だったから、おかしいと思ったんだ。そういや、そうだったな」  大介は一人で納得したようで頷いていた。 「クリスマスの時、言おうと思ったのに、途中で邪魔が入って……俺もすっかり忘れてた」  補導員に恐喝犯に間違えられた。  二人が怒りと笑いに一頻り包まれた後、ご飯を食べに行った。 「ここ、な」  大介は長い腕を突き出し、一角を指さした。 「ここでアンタが倒れてたんだ。 去年の、今日」

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