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8月13日木曜日 2年目
「義輝! いつまで寝てるの!」
階下から金切り声が聞こえる。
もう起きているけれど、昨夜面倒くさい話から久々の自室に逃げ込んだ。今も寝た振りをしてやり過ごしていると、ブツブツと文句を言う声が、途切れる事無く聞こえてきた。
「たまに家に帰って来たらこうなんだから……」
「あーー」
毎年お盆にはさほど離れていない実家に帰っているが、年々滞在時間が短くなっている。
居心地の悪さに、一人暮らしの部屋にすぐ帰りたくなる。
ベッドに寝転がり、高校時代のままの机を見遣る。広げて投げられた、お見合いの釣書。
――「もうすぐ三十でしょ!」
――「岩瀬君も今年結婚するのに」
――「良いお嬢さんでしょ」
昨夜まくし立てられて、部屋に逃げ込んだ。
ちゃんと教職に就き、世間の中では有る程度信用されている職業で、日々一生懸命働いているのに。
末っ子だから兄貴も姉貴もいるし、上は結婚して孫だってちゃんと居るのに。
「なんで、あんなに必死なんだ……」
杉崎は帰省する毎の恒例行事に、辟易しながらも少し落ち込み枕に顔を沈めた。
(流石、親だ)
帰省の居辛さは、単に口うるさい親が疎ましいだけでなく、自己嫌悪が増幅するからだ。
恋愛に奥手で、要領も悪く、口も上手くない。
そう言う性格を親はお見通しだから、親はあんなに躍起になるのだろう。
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